時計が痛い。

セックスの時の、お互いの腕時計が、当たって痛い。
金属の冷たさ。


同じ事を考えていた様だった。


「時計だね」
「時計ですね」
「…お揃いだね」
「色違いですね」
「バタフライの時と同じだね」
「ですね」

クリスマスイヴ、のイヴ。
イヴイヴと呼ばれる今日。
営業所内の昼過ぎ。

予定を合わせていた訳でも無いのに、23日にクリスマスプレゼントの交換をしてしまった。

お互いに、相手から貰える物だとは思っていなかった。
思っていなかった上に、包装も箱も同じで、開けて見れば。

腕時計。
革のバンドの。
色違いで。

前回、私用の携帯電話を機種変更をした時は二人で色を変えてお揃いにした。

だが今回は違う。
口裏を合わせた訳でも無いのに。

杉浦に渡された腕時計のバンドの色はブラウン。
菅野に渡された腕時計はブラック。

全く同じブランド。

「…ネット?」
インターネットで購入したのか、と杉浦は菅野に問い掛ける。
うん、と頷く菅野。
ニヤニヤとはしているが、いつもとは様子が違い、やや照れているようだ。

恥ずかしいのかな。

そう思えば自分まで恥ずかしくなってくる。

この腕時計は、あるブランドがクリスマスプレゼント用にインターネット上で限定品として売り出した物だった。

菅野が一歩前に出た。杉浦を見上げてくる。

「なんだい?」

大きな目で見つめられる。
照れてしまう。
目を逸らしてしまう。

「キスしてください」
「え…うん…」

ねだられる。
甘い声音。はっきりした口調。

視線は逸らしたままで、目を閉じ、菅野に口づける。

舌を絡ませ、菅野の温かみを知る。

菅野も杉浦も、手に腕時計を握りしめたまま。
唇を離し、やっと杉浦は菅野を見つめる。

「つけますか」
「そうだね」
「つけてあげますよ」
「じゃあ僕も、してあげる」
「これで、エッチの時に冷たくないですね」
「君がエッチって言うとなんだか可愛いね。いつもはセックスって言うじゃない」
「杉浦さんこそそんなことはっきり言うと、いやらしいですよ。したくなる」
「する?」
「積極的ですねぇ!」

小さな菅野が、大きな杉浦に抱き着いた。

驚いて、杉浦は手にしていた腕時計をつい落としてしまった。
菅野はそれを見て、少し拗ねた表情になったが、気にしないふりをして、杉浦を更に強く抱きしめた。


20091223完


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