杉浦家が所属する町内会で種目が毎年変わる、球技会が開催される。

杉浦夫妻は毎年参加していた。

子供はいないが、イベントには時間のある限り協力し参加した。

子供、でふと思い付き、更に今年の種目がバレーボールと聞いて、町内会長に問い合わせてみた。

別の町内からの助っ人参加は有りか、と。

ゴーサインが出たから、菅野一家を誘った。

11月中旬の、夕方。
ニコニコと機嫌よく笑う菅野の姿を、町内の体育館内で見つけた。
その傍には3人目の子供を抱く菅野の妻と、長男長女。
お揃いの真っ黒なジャージ。
「悪の軍団」と言う単語が浮かんできてしまい、杉浦は吹き出しそうになる。

「ごめんねかんちゃん、仕事終われた?」
杉浦は今日は休みだった。
菅野は業務をいつもよりかなり早めに切り上げて駆けつけた。

菅野が笑う。
「大丈夫ですよ、僕優秀なんで」
ニタニタと笑う。
つられて杉浦も笑ってしまった。

「町内会長さんに挨拶したいです」
「ああ、そうだね。こっちだよ」
「パパ、私達も」
菅野の妻が引き止める。だが菅野は
「ママはここで待っててね。今チームの人も探して呼んでくるからね」

二人で体育館内の隅にあるタープ前に向かう。
菅野はニヤニヤしながら杉浦に言う。

「僕こーゆーの自信あるんですよねー!目指せ一位!みたいなの、張り切っちゃうタイプです」
「かんちゃんに自信無い物って無いでしょ」
呆れてしまう。
菅野はいつもそうだ。
何であろうと自信を持って果敢に挑む。

菅野は覗き込むように杉浦を見上げる。
「ありますよー!杉浦さんは思うままにならないですしー」
「一番自信ある癖に…」
「どっちかって言うと、杉浦さんの方が僕の扱い方上手ですよ。僕はそう思ってます」
「そんな事無いじゃん、僕いっつもかんちゃんの言いなりでしょ」
「そうですかねー…杉浦さん、優勝したら、僕のおねだり、聞いてくれるんですか?」
「場合によりけりだけど、まぁ、聞きます」

「ふーん。じゃあ杉浦さんを抱きたいなー僕!!」

「やだ!それだけは嫌だ!」
「うわ、即答だな。ちょっと僕傷つきましたよ」
「やだやだやだやだやだからね!?」
「はい、わかりました、もう言いません」
「やだからね、かんちゃん、僕は嫌だからね!?」
「何テンパってるんですか杉浦さん…」

タープ内の、杉浦よりやや年上の町内会長に挨拶をし、チーム分けされたトーナメント表を受け取る。

菅野を引き入れた杉浦のチームは当然優勝した。

更に。
菅野の妻が参加したチームは完全なる圧勝に次ぐ圧勝で、女性部での優勝を手にした。

菅野も上手いが、菅野の妻は激しいスタイルのアタッカーだった。
いつものほんわりとした雰囲気など微塵も感じさせない。

口をあけて菅野の妻がいる試合を見ていた杉浦に、菅野は言った。
「その口封じる為にキスでもしちゃおうかな?」

そういうと杉浦はパクっと音が出るほどの勢いで口を閉じた。
菅野はニマニマしている。

「さーて…僕は杉浦さんに何してもらおうかなぁ」

出来る限りのリクエストには応えなければ。
杉浦はそう思っていたのだが、その後一週間経っても、菅野は何も言ってこない。

何もなければ良いのだが、それでは気になる。
訪ねてみるとこんな回答が戻ってきた。

「今すぐ行使しなくても、本当に使いたい時の為に置いとくかなって」
ニヤニヤニヤ。
その笑顔に背筋が凍る。

いつ施行されるかわからない命令。
恐怖だ。

以来一年、未だその指令は下されていない。


20091115完


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