「杉浦さんて」
菅野が杉浦の胸板に触れる。
「脱がすといい体してますよね。スーツ着てるとそうでもないのに」
「着痩せ」
「うん、そうみたいですね」

営業所内で、戯れる。
午前中はマエデン本部からの突き上げが痛かった。
秋田県はエルデータの普及率がとてつもなく低い。
エリアが整備されていないからだ。
それは言い訳に過ぎない。
伸び代が多い。
そう判断しなくてはならない。
事実、菅野はそうやって売ってきた。

午後からは急に静かになった。
穏やかな14時。
担当店舗からの電話も、メールも来ない。
急いでやる事もなくて、菅野と二人で雑談をする。

菅野はしばらく、杉浦の胸を撫でていた。
杉浦もまた、菅野の薄い胸に触れたい衝動に駆られる。
だが理性でそれを押し殺した。
また引きずられる。振り回される。
危険だ。
このまままた、体力勝負のセックスマシーンになるのだけは御免だ。
菅野の性欲処理に付き合わされてばかりの自分が情けない。

多少自慢げに言ってみる。
「学生時代は一番凄い時で胸囲110センチあったよ」
「凄いですねそれ!テニスでそんなになったんですか」
「ううん、それはラグビーで」
「ラグビー?してたんですか?」
「数合わせでね。断れなくて、他にも色々やったよ…やらせられた。身長のせいでバスケも」

それからバレーも。
言わなかった。
低めの身長でバレーをやってきたらしい菅野に言うことではないと思った。

「…でも僕は、団体競技は苦手なんだ。合わせられない」
「へぇ。意外ですね」
「テニスもダブルスは苦手」
「へぇー」
「数合わせによく使われたんだ。身長のせいで。剣道もやった。柔道もやった。似てるだろってバドミントンも、卓球も」
「微妙ですね。ラケットの所しかあってない」
「だろ。でもまあそう言った一人競技は好きだから、そこそこいい成績残したよ。でもね、団体競技はねぇ。向かないね、僕には」

学生時代を思い出して苦笑する。
あの頃から自分は、断る事が下手だ。
本当はさして興味も無いのに、頼まれると断れない。
必要とされているのだと思うと、断れない。

「助っ人なのにこんないい体作っちゃったんですか?」
菅野が抱き着いてきた。
小さな菅野が精一杯腕を伸ばして、自分に絡み付く。
今日はコアラを連想した。
菅野は動物。

「ラグビーとアメフトと柔道部…って助っ人してた頃にね、なんとなく筋トレにハマっちゃってさ」
「杉浦さんらしいですね」
「うん。僕はそういう、一人で黙々と何かをやるは好きだから」
「オナニスト」
「え?」
聞き返してしまった。
菅野は笑う。ニヤニヤと笑う。

「なんでもないですよ。独り言です」
「う、うん」

菅野はずっと、杉浦に抱き着いている。
小さいと思う。
170センチと言ってはいるが、もう少し低そうだ。
自分が大きすぎるだけかもしれない。
187センチ。伸びすぎだ。
菅野が見上げてくる。
首が痛そうだ。

「さて、何します、杉浦さん」
「何しようかな。本店行って宮川くんでもからかうかい」
「悪くないですねぇ」
「宮川くんて何部だったか知ってる?」
「知りません。想像つかないな」
「じゃあ聞きに行こう」
「知ってるんじゃないんですか」
「知らないよ」

笑いあった。

思いつく。

菅野を抱き上げた。

「うわ、ビックリした」
軽い。
軽くて自分も驚いた。
これだけ軽ければ、自分ではなくても誰でも抱えられそうだ。
「軽いねぇかんちゃんは」
「吹けば飛びます」
ケタケタと菅野が笑う。

菅野が笑うと、どうして自分も笑顔になるんだろう。
この影響力に毎日負けている。


20090917完



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