もう何度もキスはした。

営業所でもした。
車の中でもした。
ビルとビルの間で。
ビジネスホテルの一室で。
巡店中の店舗のトイレで。

何度もキスはした。

次のステップを、杉浦と菅野は望んでいた。

だが、何をどうすれば良いのかがわからない。

杉浦はただひたすらに悩んだ挙げ句、ネットで情報を得ると言う手段を選んだ。

あちこちのゲイサイトを閲覧し、研究を重ねた。
知識だけは十分すぎる程になった。

「かんちゃん」
杉浦は勇気を振り絞り、菅野に声をかけた。
営業所。
プリンタの前で、排出される紙を眺めている菅野の脇に立って、声をかけた。
菅野が杉浦を見上げる。
ニコニコと、いつもの笑顔だ。

「どうしました?」
「かんちゃん。今日」
「はい」
「…帰り、時間ある?」
「ええ。まぁ。ん?飲んで行きます?」
「…うん」
「どこ行きます?」
「…」
「杉浦さん?」

杉浦は大きく深呼吸をしてから、言った。

「二人きりになれる所に」

杉浦にしては珍しく、菅野の目を見つめて。
菅野は大きな目を更に大きくして、それからニッコリと笑って、

「わかりました!」

と、元気に答えた。

杉浦の心臓はドキドキと音を立てて高鳴っていた。
こんな感情は久しぶりだ。
しかし、悪い気分ではない。
楽しい。

菅野も嬉しそうな笑顔だった。

杉浦はこの時、全くと言って良い程、菅野の笑顔の理由について考えてはいなかった。
自分の逸る気持ちと向き合うだけで精一杯だった。

菅野は菅野で。
考えていたのだ。

自分が杉浦を抱くのだと。

その為の知識等は杉浦に較べると一切勉強していないに等しい。
ただ、その場になれば。
成り行きに任せて、出来るだろうと考えていた。


その夜、二人は結合する事は無かった。
その行為は思っていたよりも難題だった。

自分が杉浦を抱くのだと思っていた菅野は、指の挿入に驚き、それ故か体がそれ以上の侵入を拒否した。
頭では納得し、理解しているのに、体は、その部分は、その晩のその時間の内に馴れる事は無かった。

ただ二人で、裸で抱き合い、肌の温もりを得て、そしてキスをしながら。
お互いの物に手で触れて、刺激し、射精した。

「相互オナニー」
「…え?」
ベッドの上で。
横になりながら向かい合って、見つめあって。
反省会。

「気持ち良かったです。杉浦さんの手、大きいね」
「あ、うん、ははは」
「大きいのは手だけじゃないですけどね。僕かなり自信無くしました」
「…あ、あはははは」
「…こんなの、僕、無理じゃないかな。入るのかな。入りますかね。そもそも入れるとこじゃないのに」
「ははは…」
「はははじゃないですよ。どうすれば解決するんだろ。あのさ杉浦さん」
「なぁに」
「僕のなら杉浦さんに入ると思うんですけどね」
「嫌だ、それは嫌だ、僕嫌だよ!」
「…その嫌なのを僕にしようって言うんですね」
口を尖らす菅野を、杉浦は困った顔で見つめた。


この二週間後、二人は完全なる結合を成功させた。


20090908完


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