手を繋ぐのは、キスをしたりセックスしたりよりも、本当は恥ずかしい。

恥ずかしいと言うよりも、照れてしまう。
ああ、とかうん、とか、気の利かない呻きをあげてしまうだけだ。

「昔よく使ってたネタなんですけど」
と、菅野が切り出した。
ベッドの上で、二人とも裸で、フカフカしたリネンに包まって。

菅野は上半身を起こして、杉浦の隠れていた腕を取り出す。
徐に手を繋ぐ。
指を絡ませて。

「女性の好きな、心理テスト。どこまでホントか知りませんけど、有効ですよねこう言うのって」
にっこり笑って、寝そべる杉浦の表情を見つめる。

「こうしてね、手を組んで、親指が上に来る方が…ああ、やっぱり僕ですね。僕の親指が上に来るのがしっくり来る。うん」
黙って続きを促す。
「親指が上に来る方が主導権握ってる方らしいです」
ニヤニヤと嬉しそうに笑っている。

「でもね、こうやって、寝る時にね。いつも僕、こっち側ですよね。杉浦さんがそっち」
杉浦は菅野の右側に寝ていた。

「杉浦さんも僕も右利きですよね。で、僕の利き手は杉浦さんに握られてます」
声には出さずにうんうん、と頷く。

「利き手を握られる方がマゾヒストなんだって話です」
「じゃあ僕がサディストなのかい」
思わず聞き返した。
菅野がニヤニヤ笑っている。
「そうみたいですねぇ」
「逆じゃないの?」
どう考えても、自分は菅野にいたぶられている、そう思う。
サディストなのは菅野だ。
日中は言葉で、態度で責める。
夜は体で責める。

「まぁ、飲み屋で楽しむ様な心理テストなんでね、遊びですよ」
「ふぅん」
「それに杉浦さんはSっぽい所あります」
「そうかい?」
「セックスの時はね」
目を細めて嬉しそうに笑っている。
そうだろうか。

細くて痩せていて小さな菅野を、それは女性以上に大切に扱っていると思っている。
女性ならば柔らかい。弾力がある。フワフワしている。
菅野の筋張った硬い体は、女性よりも気を使う。使ってしまう。
折れそうだからだ。
だから、菅野に無茶な要求等した事は無い筈だ。
多分。

「たまにSですよね。それが好きなんだけど」
「どういう時に?」
「嫌だな、そんな事言わせないで下さいよ…そういう所がサディスティックなんです」
「そうかな」
「そうですよ。それがいいんですけどね」

手を繋いだまま、そんな会話を楽しむ。
あと数時間で夜明けだ。
少しは睡眠を取らなければ。
菅野はこのまま、仙台市内の自宅に戻る。
杉浦は秋田市まで車を走らせなくてはならない。
一人で高速道路を。

去年の今頃は、助手席に菅野がいて、引っ切り無しのお喋りを披露してくれた。
今年は一人で車を走らせる。

手を解いて、菅野の腰を抱いた。
細くて骨の出ている体。
「かんちゃん、僕よりいい給料貰ってんだから、もうちょっと太れる食事取ればいいのに」
それを聞いて、菅野が笑う。
「押し出し方式だからなぁ。食っても太らなくて。太りたいですよ、僕だって」
ニヒヒと笑う。

菅野が杉浦の髪を、撫でた。

頭を撫でられるのは、手を繋ぐ事よりも恥ずかしいのに、何故だろう、とても幸せな気分になる。


20090924完


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