「竹中さんも辺見さんも頑張ってますね!いい!僕、こういうの大好きです」

菅野はこれ以上無い程の笑顔を見せた。
白くて並びの良い歯が綺麗に見える。
顔の筋肉が発達した、最上級のスマイル。
自然と杉浦の頬も緩む。

仙台での会議の後で、二人で飲みに出た。
チェーンの居酒屋。
店内は騒々しい。
向かい合って座敷席に座る。

菅野は自分の業務用端末のディスプレイを何度も見て、嬉しそうに笑う。
そこには、秋田エリア『陸の孤島』原田店での、独自イベントの静止画が何枚も写っている筈だ。

原田店のエルデータモバイル担当・オカマの竹中トモロウと、今月からブロバン担当に変わった辺見ナオコは、不振店脱却を目指して二人だけでイベントを決行した。

「秋のおみくじ大会、って呼んでたみたいだね」
ビールをジョッキで飲みながら。
「内容的には?」
「携帯コーナー前に丸テーブル並べて、タケちゃんが呼び込み。辺見ちゃんがアンケート。おみくじ引かせて客増やして、興味持たせて予約か契約、だったみたい」
それを聞いて、菅野は苦笑いする。
「だったみたい、って。杉浦さん応援に行かなかったんですか」
「だって本店伸び悩んでたんだもん。原田まで遠いしさ」
「竹中さん、拗ねてたでしょ」
「怒られたよ。本店ばっか可愛がってって」
「そりゃそうですよ。本店なんか売れないのがおかしいくらいなんだから。イベントやるって知ってたら手伝いに行ってあげたら良かったのに。二人でイベントするの大変ですよ。どっちか契約入ったら一人じゃ難しいし」
「…それが理由なんだけどね」
「ん?どういう意味です?」

菅野がジョッキに口をつける。
杉浦を見つめる。大きな目。茶色の瞳。
最近、これに慣れてきた。
菅野の視線に対抗出来る様になってきた。
それでも長時間、視線を合わせるのは照れくさい。
壁に立てかけてあるメニューブックを眺める。

「ほら、タケちゃんがさ。気にしてたんだ。ずっと前に君が言ってた事」
「なんです?何か言いましたっけ僕」
「言ったらしいんだよ。僕もあんまり覚えてないんだけど。菅野くんが『イベントくらい一人で回せますからね』って、宮川くんに言ったってタケちゃんは言うんだよ」
「へぇ。僕そんな事言ったかなぁ。言ったかもしれませんね。事実だし」
「そうだねぇ」

宮川に言い聞かせていた菅野の姿が竹中には印象的だったらしい。
『ミヤサマに、一人で本店でやってみろみたいな挑発的な感じだったワヨ。そうねぇ、ならこっちでも出来るわ、辺見ちゃんと二人でやればいいんだもの。そう思っただけよ』

そうして竹中は今月分の予算を中旬で達成させた。辺見は伸び悩んでいたブロバンの契約を一気に7件成功させた。
イベントは大成功だった。

「どうせさ」
杉浦は、これは言い訳だな、と自覚しながら菅野に伝える。
「どうせ原田に行ったって、僕は邪魔にされるだけなんだ。タケちゃんも辺見ちゃんも、僕を邪魔物扱いする」
「そんなことないでしょ、どうして?」
菅野がケタケタと笑う。

「例えばさ、タケちゃん辺見ちゃん両方が同時に契約入ったらさ…僕、一人じゃん。何も出来ないよ、僕」

それを聞いて更に菅野は笑った。

「そんな事言ってるから邪魔にされるんですよ!もー、杉浦さんは…」
「僕なんかノベルティ送るだけの係だよ」
「卑屈すぎますって」
ヒヒヒ、と妙な声でまた笑われる。

「次もビールかい?」
自分のジョッキがもうすぐ空きそうだから、菅野にも尋ねた。
菅野のジョッキにはまだ半分近くビールが入っているのだが、それもすぐに飲み干すだろう。一気に。

「次は芋かなー」
「いいね。じゃあ僕も。あ、水割りでね」
「勿体ないなぁ。ロックの方が美味いのに」
「弱いからね、僕」
「そうですよねぇ」

呼び出しベルを鳴らした。


20090922完


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