本日のサボタージュ。

趣向を変えて、建売住宅見学。

「夢のマイホーム…いいなぁ…いいなぁ新築の香り…」

ツヤツヤと光る柱を撫でて、うっとりしているのは菅野。
杉浦は菅野に付き合わされている。
何かあれば、飛ばされる。
基本的には動かないが、それでも転勤族に片足を突っ込んでいる。
いつどうなるかわからないのに、マイホーム等夢のまた夢だ。

最近の菅野はマイホームブームだ。
どうも「家」に執着があるらしい。
今の賃貸マンションに移る前までは、もっと貧相なアパート暮らしだったようだ。
詳しくは聞いていない。
子供が三人いる菅野家にとって、「家」はきっと、重要なテーマなのだろう。

「杉浦さーん」
「どーしたぁ」
「杉浦さんと二人で、こんな家に住めたら幸せだろうなぁ僕…」
うっとりした表情で、杉浦を見つめる。
手はずっと柱を撫でている。

どうしたんだ菅野くん。
大丈夫かい。

「早く出ようよかんちゃん。僕もう飽きた」
「2階も!2階も見ましょうよ!」
「だったらその柱から離れなさい。あのねかんちゃん、僕ら多分間違えられてるよ」
「何が?」
「不動産屋だと思われてるってば」
「あー、僕多分この家も上手に売れますよぉ。僕って優秀なんで、なんでも売れるんでー」
「ああ、そうだね。そうだと思うよ」

本当にそうだと思う。
菅野に売れない物は無いだろう。

菅野はようやく柱から離れた。
階段へ向かう。
上へ向かって歩きながら。

「いい階段だなぁ。これなら杉浦さんが歳取って歩きにくくなってもちょっと直せばいいだけだなぁ」
「かんちゃん…何言ってるのさっきから」
「だって杉浦さんは身長有りすぎるじゃないですか。僕が老後見るとしたら、あのね杉浦さん、杉浦さんの介護用ベッドなんか特注ですよ?出費が嵩むよ」
「どうしたのかんちゃん。変なスイッチ入ったか?」

自分の老後の事なら一応は夫婦で話し合っている。
子供がいないのは不安だが、二人で施設に入るのも悪くは無いと考えている。
介護用ベッドの事までは想定していなかったが、時々妻にからかわれる。

「ヒロキくんのお葬式とか、考えるだけで憂鬱だわ。ヒロキくんサイズの棺!!特注よ?」

それを考えると、マンション住まいでは無くて安心出来る。
もし今、自分の身に何かがあって、妻が自分の葬式を出さなければならなくなって。
菅野のようにマンションの上の方に住んでいれば、きっと大変だ。
自分用の大きな棺。
確かに憂鬱になる。

借家だが一軒家で良かったと思う。
死にはしないが。

「ああー子供部屋にいいなぁこれは」
2階に上がってすぐの部屋は日当たりが良かった。
菅野は幸せそうだ。
「杉浦さん」
「なんだい」
「離婚しましょう、そんで二人でこーゆー家に住みましょう」
「たった今君はこの部屋は子供部屋にいいって言ったよね」
「一人くらいは分けてもらいますって」
「自分の子供をそんな風に親の所有物扱いするのはどうかと思うよ」
「所有物ですよ自力で携帯電話持てるようになるまでは」
「酷い言い草だな。感心しない」
「じゃあ二人で暮らしましょう、安心してください。僕が食べさせてあげます」

菅野のその発言で、杉浦の頭の中に映像が閃いた。


「行ってきます!あ、杉浦さん、僕今日遅くなりますから夕食いらないです!」
「うん、わかったー!あ、かんちゃん弁当!」
スーツの菅野にエプロン姿の自分。


首を横に振った。
なんなんだ今のは。
どうしてそんな事になるんだ。
僕が専業主夫なのか。
ダメだ。
菅野は必ず浮気する。
危険だ。信用出来ない。

菅野が見上げてきた。
「どうしました?」
「なんでもないよ」
「ゲイの結婚はー、養子縁組だそうです。苗字一緒になれますよ」
「…嫌だ」
「杉浦ヒデキって僕結構イケると思いました」
ニヤニヤ笑っている。
からかわれているのだ。
試されて、いるのか。

「行きますか杉浦さん」
「うん、行くよ。早く戻ろうよ。営業所まで結構かかるよここからだと」
「え?何言ってるんですか杉浦さん」
「え?」
「隣も、見るんですよ?」
「かんちゃーん…」

誰もいないのをいい事に、菅野は背伸びをして杉浦にキスをしてきた。

午後3時。
天気のいい晩夏。


20090825完



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