竹中は暇過ぎて、マストのバカップルを観察していた。

売り場は余りにも暇で、余りにも客がいない。

ゼロだ。

向こうに見えるテレビの辺りに少し人が見える程度。
平日のマエデン原田店は、暇だ。


やっと、携帯コーナーに二人連れの若い男性客が現れた。
マストの新機種を眺めている。

マストの二人を見る。

テルカがモコに

「はい!二台ゲット!」

と言って、尻を叩いて送り出していた。

モコは少しよろめいて、少しテルカを見つめて、それから男性客の方へ走った。
走らされていた、が正解か。

10分後に、モコは本当に機種変更で2台、出していた。

「鬼ねテルカさんは」
「どぉして?」
竹中の感想に、テルカは鼻歌混じりで悪びれず答える。

「あんな放り出し方して、よくまぁモコさん売ったわよ」
「でしょぉ。モコさん凄いよ、さすがモコさん、私のモコさん」
「そーゆー褒め方してんじゃないわよ」
呆れてしまった。

テルカがモコをとてつもなく愛している様子は、竹中を和ませる。
可愛いわー。可愛いんだけど。

テルカはSだ。
それも天然でドSだ。
自分では気がついていないだろう性癖。
そしてモコも素でドMだ。

今日の様に、テルカは笑顔でモコを手足の使役する。
モコはモコで、それを自然に受け止める。
これが上手く運んで、マストは売れている。

思わず聞いてみた。

「二人っきりでいてもそうなの?」
テルカが竹中を見て微笑む。
「何が?」
「あ、そうね。キスまでしかしてないんだったわよねぇ」
そう言えば、付き合い初めて日の浅い二人は、まだキスまでしかしていないと言っていた。

だが、テルカがニコニコしている。
「さては」
「うふふふふ」
「あらー!そうなの、そうなんですかテルカさん」
「そうだよーうふふふふー」
「ちょっとぉ!どうなのどんな感じなのぉ!!ちょっとタケナカ興奮してきたわ!タケはオカマだからビアンの事教えてぇ」
「あのね、モコさんてね」

「ちょっと、うるさいんだけど」

割って入って来たのは、モコ。

眼鏡の下の大きな釣り目が二人を睨む。

「声大きいんですけど。私、契約中!大きな声で下ネタ言うのやめて!テルカさん」
「はいっ」
叱られているのに、何故かテルカは嬉しそうだ。

「マリーちゃんとR10の白」
「はい!今すぐ!」
嬉しそうにバックヤードに走って行くテルカ。
竹中はモコに謝る。
「ごめーんモコさん」
「竹中さんは仕方ない、下ネタしか頭にないんだから!でもテルカさんはあんな事言っちゃダメ、しかも売り場で、契約中に」
唇を尖らせて、カウンターに戻って行った。

ああなるほど。
竹中は思った。

ああいう顔させたくて、意地悪しちゃうのねテルカさん。
確かに可愛いもの。
Sの気持ちがドキドキしちゃうわ。

いいわねぇバカップル。

またしても暇になり、竹中は考える事にした。
テルカはベッドでモコにどんな意地悪をしているのかを考え始めた。


20090716完


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