それは制服だった。

セーラー服だ。

コスプレ。
光沢はあるが安物の布がテラテラと。

「に…似合わないねぇ…」
「サイズはピッタリですけどね」

風呂から上がると、菅野が着替えていた。
セーラー服に。
ミニすぎるミニスカートのウエストにホックをかけていた。

思わず口をついたのが
「似合わないね」
だ。

菅野は気にせず笑っている。

「忘年会、これ着ようかと思ってます」
「うん…ウケると思う」
似合わなすぎて。

菅野の筋ばった細い四肢に、女性の服は似合わない。
似合わないのだが。

なんとなくエロティックだ。

似合わないからか。
セーラー服に「着られている」感じがなんとなくいやらしい。

「どこで買ったの、それ」
「ネットですよ」
「どうする気なのそれ」
風呂から上がって、さあこれから。
そんな時に着替えられて。

かんちゃん。
僕はそれを脱がす趣味は無いよ。

菅野はニタニタと笑いながら答えた。
「忘年会で着るんですよ。僕だけじゃなくて、杉浦さんも」
「嫌だよ!」
間髪入れず。

それでも気にせず菅野は両手を広げてニヤニヤしている。

「いやー、スカスカしますねぇ」
「かんちゃん、僕は着ないからね!?」
「宮川くんと岡部くん、竹中さんの許可は貰いました。後は杉浦さんだけです」
「嫌だってば!第一僕に合うサイズなんか売ってる筈…」

菅野が自分のバッグの中を探っている。
嫌な予感がした。

「杉浦さんのと宮川くん、竹中さんのは専門の女装サイトを探しました。男が着るの前提の服なんで大丈夫」
取り出したのは、アニメにありそうな、ブレザー。有り得ない配色の。

「僕と岡部くんのは女性サイズで丁度良かったです。安く済みました」
「ちょっと待ってかんちゃん。その金どこから」
「僕のポケットマネーです。あ、気にしないで下さいね、杉浦さんとイチャつく時に今後再利用しますから」
「いやいやいやいや」

何からツッコめば良いのか判らなくなる。

セーラー服の33歳男性がニヤニヤしながら杉浦に近づく。
手にブレザー服を持って。

「ちなみに宮川くんはチャイナドレスです。竹中さんはナース。岡部くんは巫女さんにしました」
「なんなんだそのセンス」
「杉浦さんにはスッチー…あー、スッチーって今は言わないですね、まぁそれを探してたんですが、これがサイズなくって」
「当たり前だよ」
あってたまるか。

セーラー服の菅野がブレザーを伸ばして杉浦の肌に合わせる。

「うん、似合わない!」
満足そうに笑っている。
「似合う訳ないでしょ」
似合ってたまるか。

「杉浦さん、忘年会の景品がなんだったかお忘れですか?」
見上げられる。
目を逸らした。
とてもじゃないが正視出来ない。
「…第一期コーズィさんストラップの山…」
杉浦はやっとの思いで、忘年会の景品を口にした。
菅野はニタニタ笑っている。

「そうです。久保課長が揃えて下さったそうです。第一期のは今や入手困難ですから、これがかなり価値あるノベルティかおわかりですよね!」
「お、おわかりですよ…」
「忘年会の出し物で秋田エリア優勝したら、イタダキなんですよ!」
「ううううう」

笑い者にされてまで欲しい景品ではない、と杉浦は思った。
そんな物に頼ってまで商品を売りたくない。
恥をかきたくない。

「菅野くん」
「なんでしょう」
「かんちゃんが着たいだけでしょ、それ…」
指摘してみた。
絶対そうだ。
菅野が面白がって着たいだけだ。
きっとそうだ。

「違いますよ?」
「嘘だ」
「ちょっと違いますよ。僕が着たいんじゃなくて、杉浦さんがスカート履いてるトコ見たいだけです」
「か、かんちゃんの変態!!」
「それは事実なので認めます。ついでに言うなら女装の杉浦さんに犯されたいです」
ニタニタと嬉しそうに。
口が開いて、閉じられなくなった。




忘年会での記憶はあやふやだ。
久保にスカートをめくられ、安東に尻を撫でられ、女性陣に携帯を向けられた。

「写真だけは!写真だけは撮るなってば!!」
必死の杉浦だったが、菅野と竹中に両腕を取られてあちこちで記録として残されてしまった。

そして新年、営業所に届けられたコーズィストラップの段ボール。
それから。
「うちのに直してもらったんですよー、コスプレ衣装ぜーんぶ。僕サイズに。あれ着てイチャイチャしましょうねぇ」
菅野の楽しそうな声。

今年も菅野に振り回される自分を覚悟した。


20090821完


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