腹割って話しましょう、と言い出したのは菅野。

営業所内。
山積みの書類を一つずつ片付けていた。
今晩中に送信する物。
週末締め切りの物。
月末まで待てる物。
三段階に分けて。

杉浦が選り分けて、菅野が処理をし、最終チェックをまた杉浦が。

週末締め切りの報告書を途中まで打っていた菅野が、作業に飽きたらしく、営業所を出て行った。

ビル内の喫煙室に向かったのだろう。
10分もせずに菅野は缶コーヒーを2本持って戻ってきた。

「休憩しましょう杉浦さん」
「うん」
缶を渡される。

休憩。
休憩って、本当に休憩ですよね菅野くん?
言葉にすればそれが現実になりそうだったから、言わなかった。
余計な体力は消耗したくない。

「杉浦さん、腹割って話しましょう」
「な、何が?」
PC前に座る杉浦の隣に菅野は立っている。
ニヤニヤ。ニタニタ。
意図が掴めず、聞き返す。
「何が?」
「最近ちょっとご無沙汰ですねぇ僕たち」
「ちょっと…ちょっとだよ」
「一週間も何もしてないって、僕らにしては珍しいと思うんですよねー」
「そうかな」
一週間なんて普通だと思う。
今までが酷かったんだ。
会う度、顔を合わせる度。
セックスしない日が無い月だってあった。
二人でする事を覚えてから、ずっとそんなサイクルだった。

しないのが一般的なんだと思う。
杉浦は来年40になる。菅野も33歳だ。
セックスばかりに気をとられている年齢ではない。
それよりも、仕事が先だ、生活が最優先な筈だ。
筈、だ。

菅野がしゃがんだ。
跪いたかと思うと、杉浦の膝の上に両手を乗せて、更に頭を乗せた。
甘える仕草。
上目遣いで。

「杉浦さん、あのね、僕ね、本当は、指入れられるのあんまり好きじゃないです」
「えっ」
いきなり、そんな事をこんな場所で言われても。

「指、痛いんですもん」
「でもかんちゃん…ほら、広げないとさ、入らないよ」
「うん、分かってます。だから…広げるんなら仕方ないですし、それは大丈夫なんです、気持ちいいよ」
「じゃあなんで」
「…指だけではイケないんでぇー」
「あ、そうなんだ、そうか」
「僕ちょっと反省しました。指だけでイかせようって頑張っても女性、痛がる事あるでしょう。ホント反省しました」
「そうかぁ」

生々しすぎて、恥ずかしくなる。
なんなんだこの会話は。

「やっぱり杉浦さんのが好きですよ」
菅野の言葉はいつも唐突すぎて、しかもオブラートに包まれる事もなくて。
コーヒーが逆流しそうになる。
少し咳き込む。
気にせず、菅野は続ける。
「杉浦さんの指もー…入れられてる分には好きです、気持ちいいです。でも指だけ動かされてもそんなに良くない。途中でちょっとだけ痛くなる。やっぱり杉浦さんのが欲しくなる」
「う、うん」
「あんなの入らないって、最初は思いましたけどねー」
「う、うん。確かに」
二人で最初に挑戦した日の事を思い出す。
上手く出来ず、二人で悩んだ。
悩んだ挙句、結局はただ、抱き合って寝た。
それだけでも幸せだと感じた。
何回かの挑戦の後に、挿入に成功し、お互いに頂点に達する事も出来た。
今思えば、菅野は一人で「練習」していたのではないかとも思う。
でないと、そんな最初から。

酷く恥ずかしい事を想像している自分に気がついて、頭を振った。

「杉浦さんは僕に何か、無いですか」
「無いよ」
「あるでしょう、言って下さいよ」
「無いってば」
「そうですか?ふーん」
納得してない様な表情で。
しかし、本当に何も無い。
殆どの場合、ベッドの上では菅野が指揮を執る。
挿入するのが杉浦なだけで、途中までは菅野に襲われていたぶられているだけだ。

菅野が立ち上がる。

「終わらせますね。早めに終わらせて、どっか行きたいですよね」
「そうだね」
「あと3時間で終わらせます」
「了解」
「僕、行きたいラブホあります」
「どこ?」
「あのですね、サイト見つけたんですよー…」
菅野は業務用に使用している端末を取り出した。

業務用、そんなの探すのに使わないでよかんちゃんー。
思ったけれども口には出さない。

二人の業務用端末は色違いの同機種だ。


20090821完



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