テーブルに夕食。
エビフライ。
「先日奥様からいただいた物です、ありがとうございました」
菅野の妻が微笑む。
杉浦の妻の実家から大量の海老が届けられた。
それだろう。
杉浦は微笑む。
妻同士、仲が良いのは嬉しい気がする。
罪悪感からか。
自分では判らない。
正直、今は菅野の体からボディシャンプーの匂いがしないかが不安だ。

「パパ、いい匂いするね?何の匂い?」
席についた菅野の妻が、隣に座る菅野の首筋に鼻を寄せる。
感づかれたか。ヒヤリとする。
杉浦の皮膚が泡立つ。

菅野はニコニコと笑って、答えた。
「うん、杉浦さんと風呂入ってきた」

何を言い出すんだ菅野くん。
杉浦はドキドキする。
目の前が真っ暗になりかける。

菅野が続ける。

「暑かったから途中でラブホ入ったんだ。杉浦さんと」

何を。何を言ってるんだ菅野くん。

長男が問う。
「らぶほー」
「変な言葉教えなくていいから。どこのホテル?」
「南が丘から戻る途中の。今度行く?」
「やだバカパパ」
「いいとこでしたよねぇ」
「え?」
振られて戸惑う。
菅野の妻を見ると、目を輝かせて杉浦の答えを待っている。

「広い風呂だったよ…ね?」
当たり障りの無さそうな事を言ってみた。
「ね。こんだけ暑いと途中で風呂にも入りたくなるよ」
「だよねー。あたしもシャワー二回浴びたよ…暑かったー」
ニコニコと菅野夫妻が笑いあっている。

心臓が冷たくなった様に感じる。
菅野夫妻を見つめての嫉妬等ではない。

不倫行為がバレたのではないかと言う不安。
ただ、それだけだ。
俗な感覚。

味の無い食事を開始した。
開始したが、途中から気が楽になった。

冷静に考えた。

疑われてないのだ。
何故?
簡単だ。

男同士だからだ。
だから疑われてない。
それだけだ。

エビフライに味を感じた。
美味い。

「すぎうらさん、おかありしてー」
長男が期待を込めて杉浦に言う。
妙な緊張も解けて、杉浦は微笑む。

突然菅野の妻が言った。

「杉浦さん、うちのに襲われないで下さいねー」

咽せた。

「アハハ、杉浦さん、麦茶麦茶」
菅野がコップを差し出す。
「やだ杉浦さん、可愛いですね」
「真由、失礼だろ」
「ああん、すみません杉浦さん」
「い、いや別に」
咽せる。
苦しい。
心臓に悪い。
菅野の長男が杉浦の背中を撫でると、長女もそれを真似た。

菅野宅を後にした杉浦の携帯に、車に乗る直前菅野からメール。

「全力で嘘つくとバレないもんですよ(・∀・)」

からかわれたな。
僕をからかうにも全力だな、菅野くんは。
腹立たしさも無くなり、ふと、笑ってしまった。

ドアを開け、乗り、ため息を一つ。
キーを回した。


20090819完






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