気が利いてるな、と杉浦は感じた。

今日利用したラブホテルの風呂には、2種類のボディシャンプーが備え付けられていた。
その内一つには大きく、無香料と書かれていた。

それを見て菅野は笑った。

「ボクそれ使いません。こっちの方がいい匂いする」
そう高らかに宣言し、もう一つの香りのついたボディシャンプーに手を伸ばした。

心配になる。不安になる。
「なんでーかんちゃん。バレるよ」
「大丈夫でーす」
鼻唄混じりで。スポンジにシャンプーを付けて泡立てる。
杉浦は菅野を横目に、自分は無香料のボディシャンプーを使い、汗を流した。

風呂から出て、多少クーラーで涼み、来た時と同じ様にスーツに着替え、杉浦の運転する自家用車で秋田市内へと戻った。

車内で菅野が意外な事を言った。

「このまま直帰じゃないですかぁ。杉浦さん、うち寄ってって下さいよ」
「え?」
聞き返す。

外は暗くなり、車内には菅野の使ったボディシャンプーの甘い香りが漂っていた。

「嫁からメール来てるんです。夕食間に合うようなら杉浦さんも一緒にって」
「え…」
迷った。
杉浦が迷ったのは、誘いを断るべきかという問題ではない。

菅野の質問の意図がわからなくて、返答に迷ったのだ。

今、たった今杉浦は菅野を抱いた。
性別はどうあれ、立派な浮気だ。不倫行為だ。
杉浦にも妻がいる。
まして菅野には子供までいる。

それなのに、今度は杉浦を自宅の夕食に誘う。

返答に詰まる。

菅野はヘラヘラ、ニヤニヤといつもの笑顔で助手席から杉浦に尋ねる。

「あと30分位で着きますよねぇ。うちのの手料理、悪くないですよ。子供も杉浦さん大好きですし」
「菅野くん、君ねぇ」
「なんです?」
「…嫌だよ、風呂上がり丸出しじゃないか」
「それなら全然大丈夫ですよ」

逡巡している間に、杉浦は菅野の自宅に到着した。

マンション。
駐車場に車を停めて、二人で菅野宅を目指す。
エレベーターの中でも、菅野は始終笑顔で空腹を訴えていたが、杉浦は気が気ではなかった。

玄関を開けるとまず長男が駆け寄ってきた。
どちらかと言えば菅野の妻に似ている。
名前は確か、ミツキ。
続いてヨチヨチと長女が出迎える。
彼女の名前はミルモ。
大歓迎を受ける。
子供のいない杉浦にとって、気恥ずかしさが先に立つ。
子供を、どう扱って良いかわからない。

「久しぶりだね、みっくん、みっちゃん。こんばんわ、お邪魔します」
台所の方に声をかける。
菅野の妻の返事が聞こえてきた。
「ご無沙汰してましたぁ。すみません、上がって下さい、無理にお誘いしてすみませんー」
菅野に後ろから突かれる。
菅野はニヤニヤ笑っている。

「すぎうらさん、だっこー」
長男が杉浦に甘える。足に絡み付く。
親子だな、と感じる。
要求の仕方が似ている。
まだ上手に言葉を使えない長女も、兄の真似をして杉浦の足に縋る。
それを見て菅野はまた笑い、杉浦から子供達を剥がす。

「杉浦さんが歩けないだろ」
子供達はケタケタと笑い、リビングへ走って逃げた。
後ろから着いていく。
「うるさくてすみません」
「ううん」
入ると、カウンター式のキッチンから菅野の妻が顔を出した。
「いらっしゃいませ、杉浦さん!すぐ出来ますからお好きな所のかけててくださいねー。パパー、ちょっと手伝ってー」
「はいよー」

慌ただしさ。
杉浦の家では有り得ない騒々しさ。
子供達ははしゃぎ、杉浦の手を引っ張る。
「こっちにねーミナトくんがいるのー」
「のー」
長女と長男は、隣の部屋に杉浦を誘う。
どうやら、次男が寝ているらしい。
菅野の妻に声をかける。

「寝てますか」
「はい寝てますーでも大丈夫です騒がしいの好きな子だから」
「挨拶します」
杉浦の言葉に菅野が笑う。

長男長女に腕を取られて、隣の部屋に入る。
子供の部屋の様だ。子供服が床にまで広げられていた。他には玩具やおむつ等。
小さなベッドの中に赤ん坊がいた。

「ミナト寝てるの」
「の」
「そうだねぇ。ちいちゃいねぇ」
スヤスヤと寝息を立てて。
どっちに似ているかは判断出来なかった。
赤ん坊は皆、同じ顔をしている様に思える。

「さぁ来ーい!ご飯だぞー」
菅野の声。楽しそうだ。
ちゃんとお父さんなんだな、と杉浦は思う。
子供達ははしゃぎながらリビングに戻る。
杉浦も戻る。
振り返り、次男を見つめるが、こんなうるさい中でも次男に起きる気配は無かった。




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