今度はいつ会えるんだろう。
今度抱き合うのはいつになるんだろう。
そんな事を思う。
腕の中の、誰よりも尊敬出来る人物は、安らいだ表情でただ、杉浦に抱かれている。
呼吸。
菅野の小さな呼吸。
整った呼吸。
眠っている訳ではないが、瞼を閉じて、杉浦の腕の中で落ち着いている。
菅野くん。
そう、人前で呼ぶのも慣れた。
最初は、菅野が昇進してからすぐは「菅野さん」と呼んでいた。
菅野が嫌がるから、少しずつ直した。
今では、慣れた。
他人が聞けば違和感があるだろう。
部下が上司をくん付けで、上司が部下をさん付けで。
それでも、自分達が良ければいいのだと、菅野は言った。
菅野の言う言葉に間違いは無い。
菅野に付き合うのは、馴れた。
菅野の常識に付き合う事に馴れた。
「菅野くん」
腕の中の恋人を呼んでみる。
小さく、吐息の様な返事がある。
もう一度。
「かんちゃん」
今度は笑顔付きで、嬉しそうな吐息が洩れて。
「ヒデキくん」
菅野の閉じられていた瞼が開いた。
「名前で呼ばれたの初めてですね、ヒロキさん」
杉浦も、初めて菅野から名前で呼ばれた。
20090710完