よっぽど俺からエルデータ買ってってお願いしようかと思った。
でもやっぱ言えない。

今月、台数出なくて、担当営業の羽柴さんにうるさく言われてるけど。
でもやっぱ、そういうのは、こっちのお客さんには言えない。


一緒に風呂入って、話して、時間になったからヒデキからメールが来て、挨拶してホテルから出た。
ヒデキの車がすぐに来た。

乗り込んで、挨拶。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
車の時計は03:25。
あくびが出た。

ヒデキがなんか差し出して来た。
「飲むか?」
「なにこれ…コーヒー?明日の朝飲むー。今目ぇ覚ましちゃうと寝れないよ」
「…もう一本指名来てるけど、断るよな?」
「あ、そーなの?行くよ行く行く。んじゃコーヒー飲む!」
「無理しなくていいって。今日何本走ったと思ってんだよ」
「指名だろ?常連?」
「いつもミナトにレザーパンツ履かせる奴」
「あーオッケーオッケー!あの人、月一だから!滅多に会えないから行くよ、折角指名してくれたし!」
「…いいんだな?社長と客にそう連絡するよ」
「うん、それでラストにしよーぜ」

俺はヒデキに笑って伝えた。
俺は笑える。
まだ笑えてる。
大丈夫。

携帯は売れない。
羽柴さんは厳しい。
携帯のコトとか俺には難しくて、全然覚えられなくて、まだまだ周りに迷惑かけてる。
一緒に働いてる秋山さんとか。秋山さんはすっげ美人で頭良くって、俺がゲイじゃなきゃきっと好きになってそう。でも俺やっぱ覚え悪くて社員の秋山さんには迷惑かけっぱなし。
マストの人もQoQoの人も皆優しいけど、なんとなく、俺は昼の世界の人達が眩しくて、ちょっとだけ敬遠してしまう。
昼の常識とかってわかんないし。
だからマエデンの人達にもからかわれる。常識ねーなーとかって。
昼の仕事って俺に向いてないのかなとかって、ちょっと思ったりした。
でもやっぱ昼の仕事してると親安心するし。
借金作ったバカ親だけど、それでも心配かけたくねーし。
バカ親は俺がホストクラブで働いてるって信じたままだし。


「ミナト、寝てていいぞ」
ヒデキが心配そうな声出してる。
俺ってそんなに弱ってるよーに見えるんだろーか。
俺からしたら、よっぽどヒデキの方がヘロヘロに弱ってるっぽく見えるんだけどな。
「寝たら起きるの大変だから寝なーい!コーヒー飲んだし大丈夫!」
「明日、夜は休めよ?」
「予約入ってんじゃん、無理」
「それだけ走って、休めよ」
「休んだらヒデキ、一緒に遊んでくれる?」
キヒヒってふざけてみた。

「お前の部屋に遊びに行くよ。俺も休むから」

意外な答が返ってきて、ビックリした。

「俺も休み貰うから。寝よう。あ、寝ようって言ってもそういう意味じゃなくて、とりあえずお前、寝かせたいから」
「うん、知ってる…休み貰えんのヒデキ」
「先週休んでないからな。社長が好きな時に一日休めって」
「そーなんだ…へぇー…オッケー俺明日予約の後フリー!ヒデキ俺の部屋入るの初めてだよな」
「ああ。なんか食うの買ってく」
「いいって、俺用意するって!俺の方が多少小金持ち!」
そう言うと、ヒデキが少しだけ、クスクスって笑った。

なんか、この一瞬だけ、天国だなーって、思った。


ヒデキが、俺の部屋に入る事は無かったけれど。

俺は翌日の予約客にも会えなかった。
マエデン秋田本店で、倒れたから。


過労と貧血。
貧血の理由がリストカットのし過ぎだって知ったヒデキは病院で俺を殴りかけた。
社長に止められてた。

可笑しくて、笑いそうになった。

笑えなかったけど。
もう、顔の筋肉が、言うこと聞かなかった。

ヒデキの泣いてる顔を見たのは初めてだなって、思った。


20099814完



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