客が言う。

「ミナト、疲れてるの?」
「ううん。そんな事ないよ」

そう、そんなこと無い。
疲れてなんかいない。
俺はまだハタチだし。若いし。
それにまだ笑ってられる。
本当に疲れてたら、笑えない。
顔の筋肉が動かなくなる。
前に一度だけそんな体験してる。
だから、俺は疲れてない。

「ミナト、昼も働いてるんだっけ。掛け持ち?」

今日のお客は、俺のお客にしては珍しい、ネコのサラリーマン。
ヒデキと同じ位の歳かな、って思う。
ヒデキに似て痩せてて。ただ、身長はヒデキより5センチは大きそうだ。
ヒデキが普通より小さいんだと思う。

「ちょっと前から昼も働いてるよー。楽しいねぇ昼の仕事」
「バイト?」
「んーん。派遣」
「流行りの」
「うん。三ヶ月更新だからドキドキだよ」
「どんな仕事?」
「教えない、恥ずかしいから。風呂入ろ。時間なるよ」
「ああ…一時間はやっぱ早いなぁ」
「延長する?」
「いや、いいよ。ミナト明日も仕事なんだろ。朝早いんだったら帰してあげたいし」
「優しいなー!」

本心で。
優しい言葉だな、って思った。

お客がベッドから降りる。俺も降りて、一緒に風呂に向かう。

このお客さんは常連だ。
俺がこの仕事はじめた最初から指名してくれてる。
名前は、知らない。
外で会った事も無い。

顔はフツー…短髪で、眼鏡してて、ちょっと気の弱そうな、でも優しい感じの。
指輪してる。
結婚してるっぽい。
ちらっと見えた携帯の待受は赤ん坊の写真だった。
携帯は、マストの古そうな機種。



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