そして一方。
エルデータ・マエデン東北販路部では夏のヘルパーミーティングを控えていた。
ミーティングとは名ばかりで、メインイベントは夜の親睦会。
そこで東北六県それぞれで出し物を発表する。

「審査員は僕こと安藤と久保課長です!優勝エリアには豪華景品進呈!ご存知の通り久保課長は派手な演出が大好きです!」

そんなメールが送られて来たのは先月末。

菅野の頭の中でも、竹中の頭の中でも、同じ映像が繰り広げられた。

ラフスCMのコピーをやろう。いや、やるべきだ。

杉浦はまだ首を横に降り続けていた。
「いいいいいやだからね!僕は嫌だからね!恥ずかしい思いをするのはもう嫌だ!」
「もしかして杉浦さん、まだ忘年会の事根に持ってるんですか」
菅野が下から杉浦を見つめる。
忘年会を思い出して、辺見と竹中はまたニヤニヤしてしまった。

同じように出し物を要求され、秋田エリアは杉浦菅野宮川岡部竹中の五人で女装をしたのだった。
全員見事なまでに似合わなかったのだが、中でも杉浦のブレザー姿に東北全体が揺れた。
身長187センチの女子高生。

「も、もうあんな思いは嫌だからね!?」
「何言ってんのスギサマ。今回はラフスのダンスをそのままコピるだけよ?スギサマだってあのCM、好きでしょ?カッコイイじゃないの」
「カッコイイけど僕あんなの出来ないよ?!」
「ちょっとぉカンカン、スギサマったらノリ悪いわぁー。いつもだったらカンカンと悪ふざけばっかしてるじゃない。今回も悪ふざけしてヨ」
「杉浦さん、恥ずかしく無いようにしますから。とりあえず撮影した物を当日プロジェクタで写すって方法考えてます。その場で踊れとは言いません」
「や、やだよ!よっぽど嫌だよ!記録が残るって事じゃないか!」
「あらビデオ撮るのね。ならちゃんとラフスに忠実にしたいわカンカン。まんま階段降りてく映像にした方が素敵よー?」
「そうですね、マエデンのどっかで撮影させて貰いますか。南ヶ丘店の店長なら話わかってくれそうだなー営業終了後にちょっとだけって」
「やだってば、やだやだやだよ嫌だからね僕は!!絶対協力しないからね?!階段踏み外して怪我なんかしたくないよ!?」
「杉浦さんここ売り場ですぅお静かにですぅ」
辺見に嗜められても、まだ杉浦は嫌だ嫌だと叫び続けた。



結論から言うと、夏のヘルパーミーティングで優勝したのは秋田エリアだった。

ラフスCMを忠実に再現した秋田エリアのその映像は爆笑を呼んだ。

完璧に踊りこなす菅野、竹中、宮川、岡部。
中でも辺見マコト役の菅野のコピーは見事な物で、ラフスのメンバーだとしても可笑しくは無いだろうとさえ思える出来。

そして杉浦。

杉浦のダンスが、思った以上に上手かった。
竹中の厳しい指導もあり、努力家な杉浦は完璧なダンスを披露した。
どこに出しても恥ずかしく無い出来栄え。

だが、それが普段の杉浦のイメージと程遠すぎて、爆笑を誘ってしまったのだ。

優勝はした物の、またしても恥をかいたと思い込んだ杉浦は落ち込んだ。

「秋田がマイクロSDの山貰えたのは杉浦さんのお陰じゃないですかー。そんなにへこまないで杉浦さん」
「もうやだ。もうホント嫌だ。かんちゃんの言いなりはもうやだ」
「僕は杉浦さん、カッコイイと思ったけどなー」
「やだやだやだもう思い出したくない、あんなに頑張ったのに笑われて。もうノベルティくらいであんな事しない」
「もー、いい加減ご機嫌直して下さいよー」

ミーティング後一週間、こんな会話が営業所内で続いた。


20090806完






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