暑い。

部屋にクーラーは無い。
扇風機も壊れた。

仕事、入んないかなー。

今すぐこの携帯電話が鳴ればいい。

自宅じゃなくて、やっぱホテルがいい。
クーラーがガンガンに効いたラブホテル。
汗かいて仕事したい。
肉体労働。

俺の仕事はデリボーイ。

ワンルームの小さな部屋。
テレビも付けずに。
テレビを付けると暑いから。

手にした携帯も熱くなるばかり。

ビールでも飲みたい。
でも飲んだら仕事にならないから。
冷えた麦茶でもいい。
飲みたい。飲みたい。水分補給。

携帯にメール。

ドライバーのヒデキからだ。
やった、仕事だ。

「ティアラからオーダー。5分後に着きます」

了解、と返信する。

現在14時過ぎ。
客は営業マン、と踏んだ。
こんな時間にいい気なもんです。
羨ましいご身分。

バッグに詰めた仕事道具一式を手にして、部屋を出る。
うちの「店」には待機所が無い。
皆自宅で電話が鳴るのを待っている。

アパート前で暫く立っていると、くたびれた軽自動車が停まった。

助手席を開けて中に入る。
「おはようございます」
ヒデキの挨拶。
俺も答える。
「おはようございまーす」
昼を過ぎてもいつだって挨拶はおはよう。
深夜の3時を過ぎたって挨拶はおはよう。

車が発進する。
「今日暇?」
尋ねてみた。
ヒデキはニコリともせずに答える。
「マチルダとレノの方は忙しいよ。カポネは暇」
「そう」
マチルダは同じ経営者がやってるデリヘル…普通のデリヘルの店名。
女の子は頑張ってるらしい。
レノはデリボーイの店。で、女性客がターゲット。
カポネ。俺が在籍しているゲイ客ターゲットの店は暇なんだそうだ。
ただでさえ暇なのに、平日昼間なんて暇だ。

それでも俺はこの仕事を辞められない。
借金があるから。
仕事の量が少なくとも、普通に働くよりずっと実入りがいい。
辞められない理由は他にもある。
俺がゲイだから。
タチもネコもいけるゲイだから。
この仕事が好きだから。
男との性行為が好きなスキモノだから。
ヒデキが好きだから。

ドライバーのヒデキが、好きだ。

「ヒデキー、借金返せそう?」
助手席から声を掛ける。
ヒデキはずっと前方だけを見ている。
「借金なんか無いよ。仕事が無いだけ」
「仕事見つかった?」
「見つからない」
「ふーん。じゃあまだ辞めないんだ、この仕事」
「ああ。しばらくは辞めないと思う」
「ヒデキもデリやればいいのに。よっぽど金になるよ」
「嫌だ」
「どうして?金必要なんだろ」
「必要だけど」
「プライド高いなヒデキ」
「プライドなんか無いよ」



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -