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「撃たんといてくれ、チカ兄!」
「何言うてんねん。すっぐにエス回収したる」
「撃たんといてくれって、チカ兄!」
緊張感が走る。
Kが立ち上がり、後ずさる。
エスが不安気にKを見上げる。
それを見てまた嫉妬を感じる。
違う。
ジェラシーなんぞいらんねん。
エスを取り戻す。
「チカ兄、すまん!」
圭は近の手元を狙った。珍しくそれは的中した。
アサルトライフルが濡れたアスファルトに落ちる。
近はまだニヤニヤと笑っていた。
「ホンマにジブンは依栖に弱いなぁ」
答えられない。
その通りだからだ。
数秒、雨の降る音だけが聞こえる。
突然、黒塗りのバンがエスと圭の後に迫った。
圭は緊張する。
「終わり」の車だ。
そう思った瞬間、運転席側から何かが投げつけられた。
地面にぶつかる。
催涙弾。
白い煙。
気体の壁の向こうで車が停まる音がする。
「逃げる気か!ずっこいぞエス!」
むせながら圭は叫んだ。
エスの返答は無く、代わりにKが答えた。
「また来るからな」
「来んでええわ!」
涙が出る。
鼻からも液体が出る。
声が枯れる。
喉が痛い。
瞼を開けたとき、そこには雨上がりの空と、虹と、圭と同じように苦悶の表情をした近だけが残っていた。
遠くで東京市民達の声が響く。
ハレルヤ!ハレルヤ!新しい世界!新しい時代!
その時代の波に、圭は一人取り残されていた。そこに依栖がいないからだ。
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