-8-


「撃たんといてくれ、チカ兄!」
「何言うてんねん。すっぐにエス回収したる」
「撃たんといてくれって、チカ兄!」

緊張感が走る。
Kが立ち上がり、後ずさる。
エスが不安気にKを見上げる。
それを見てまた嫉妬を感じる。

違う。
ジェラシーなんぞいらんねん。
エスを取り戻す。

「チカ兄、すまん!」

圭は近の手元を狙った。珍しくそれは的中した。
アサルトライフルが濡れたアスファルトに落ちる。
近はまだニヤニヤと笑っていた。

「ホンマにジブンは依栖に弱いなぁ」

答えられない。
その通りだからだ。
数秒、雨の降る音だけが聞こえる。
突然、黒塗りのバンがエスと圭の後に迫った。
圭は緊張する。
「終わり」の車だ。
そう思った瞬間、運転席側から何かが投げつけられた。
地面にぶつかる。

催涙弾。
白い煙。
気体の壁の向こうで車が停まる音がする。

「逃げる気か!ずっこいぞエス!」

むせながら圭は叫んだ。
エスの返答は無く、代わりにKが答えた。

「また来るからな」
「来んでええわ!」

涙が出る。
鼻からも液体が出る。
声が枯れる。
喉が痛い。

瞼を開けたとき、そこには雨上がりの空と、虹と、圭と同じように苦悶の表情をした近だけが残っていた。

遠くで東京市民達の声が響く。

ハレルヤ!ハレルヤ!新しい世界!新しい時代!

その時代の波に、圭は一人取り残されていた。そこに依栖がいないからだ。



←back← →next→

一覧へ



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -