何こいつ何こいつ。
知ったような口利きやがって。
何よ何よ何よ何よ何よ!

「薬持って来とる?何飲んどんの?」
 
薬の事まで!

「俺のんやろか。ワイパックスやけど」
「…ワイパックス?」
「ワイパは俺も大事にしとるからあんましやりとーないんやけど…コントミンやったら熨斗つけてやってもええで」
「…わ、私も、コントミンは、嫌い…」
「喉詰まるような感じせぇへん?」
「す、る…」
「なぁ。アレ嫌やな。イラっと来るなぁ」
ヒナガタは左手に脱脂綿を持って、右手を自分の制服のポケットに入れた。

あ、コイツ、もしかして、左利きかな、とかどうでもいいことを思っていた。

ヒナガタの右手がポケットから出て、その手のひらが私の前で広げられた。
薬が何種類か、二つづつ。
 
「…あ、デパスがある…」
「デパスやったらもうて。俺もぉいらんし」
「飲まないの?」
「眠る方のは最近いらんよーなってん。今はセルシンとワイパだけでいけるよーなったし」
「じゃあ何で持ってたの?」
 
ヒナガタが、またさっきの大人びた顔で笑った。
「寝る系薬は、お守り。こんな赤玉もレボトミンもいらんねん」
「赤玉…これがベゲタミンなの?初めて見た」
「ベゲAって奴。白玉は処方された事ないわー」
ヒナガタは、アモバンも持っていた。
私はハルシオンとリスミーを出してもらっていて、アモバンは名前は知っていたけど飲んだ事は無かった。
「…ワイパックスと、デパスと、アモバン…下さい」
「ええよ。もろて。今飲む?」
「ワイパックスとデパス…飲みたい…」
「誰か迎えに来んの?」
「お母さんが、来るから」
「ほな寝てもうてもええかな?ええの?」
「うん、大丈夫。寝ちゃう。寝ちゃいたいから」
「そやなぁ。寝たええねん。あ、アモバンは大丈夫なん?飲んだ事あるん?」
「無いけど…、苦いんでしょう?」
「おん。まぁ覚悟しとった方がええで。笑ろてまうくらい舌がアホなるから」
思わず笑ってしまった。
ちょっと期待してしまう。
リスパダールの液体のもかなり不味かったけど。
  
手を出して、薬を貰おうとしたら、ヒナガタの方が手を引っ込めた。
「消毒してからや」

 



私はアモバン欲しさに黙ってヒナガタに手首の処置をさせた。
 
三種類の薬を貰って、内二種類を飲んで、アモバンは胸のポケットにしまって、ベッドにまた横になった。
「先生来ぃひんなぁ」
「そうだね」
どないしよ?俺おらん方が寝れる?」
「いていいよ」
「そうさせて貰うわー。もぉな、絶対まだ校長の話終わっとらんで」
ヒナガタは、保健室の先生の椅子に座った。
携帯をズボンから出してきた。
 
「音消しとくから、ゲームやらせて」
私は無言で頷いた。
瞼を閉じる前に、ヒナガタがどっちの手で携帯を持っているか確認してみた。
左手だった。

と言う事は、ヒナガタの切り痕は、私と逆で右にあるのかな、とかそういう事を思いながら、眠る事にした。



【完】



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