入学式だけでも、と思って出てきたけど。
椅子にだって座ってたけど。
でもあんまり校長先生のお話が長くて、聞いてる内に気が遠くなって、校長先生の声も遠くなって。
 
気がついたら、例によって例のごとく、そこは「保健室」で。
頑張るつもりだったのに、入学式初日に保健室デビューもしてしまった。

こんな調子で、本当に私は卒業までできるのかな。
 
やっぱり、高校なんて無理だったのかな。

あー…切りたいよー…。
保健室のベッドに横になったまま、自分の左手首を目の前にかざしてみる。

包帯とかリストバンドなんかは「カマッテ!」のアピールが過ぎるから、私はできるだけしないようにしている。

制服は長袖で、切っている所は隠れるし。
でも…ああ、ちょっと血が滲んでる。
昨日は切るの我慢出来て、薬飲んで寝たから大丈夫だと思ったんだけど、一昨日切ったのがまだふさがってなかったんだ。
せっかくの新品の制服なのに。
私服で通学してもいいらしいし、第一そんなに学校来れないだろうし、いいんだけど、やっぱりちょっと勿体無い感じはする。

ベッドの周りは白いカーテンで遮られていた。
ここの保健室の先生とは、入学前に色々説明しておいたから…うん、止血してもらおう。
私は上半身をゆっくり起こして、カーテンに手をかけた。

カーテンの向こう側から声がした。

「起きたん?」
関西訛りの男の声だった。
 
先生じゃない。生徒だ。声がそんな感じ。
それにここの保健室の先生は女だった。

カーテンを開けずに、ベッドの上から聞いてみた。

「…すみません、誰ですか?先生は?」
 
「あー、ココの先生なー、体育館行った。さっき。校長話長いねん。またジブンみたコが貧血で倒れてんて。ほんで迎えに行ったわ。すぐ来るやろけど」
「…あなたは誰なんですか?」
「俺は前園さんここまで運んできたクラスメートです、よろしゅー」
 
なんで私の苗字知ってるの?

「なんで苗字わかるん思たやろ。新入生名簿さっき渡されたやん、並ぶ順番、前園さん俺の後ろやし」
「な、なんで、それで、あなたが私をここに運ぶんですか?先生方もいたよね?」
「おん、おったけど…前園さん、倒れる時、前に座っとる俺の背中に倒れたし。そのままおぶってきてんけど」
そうだったんだ。うわぁ。恥ずかしいよ。どうしよう。別の意味で「明日から学校に行けない」。

いきなりカーテンが開いた。

指定の制服を着た、細くて顔の綺麗な男の子が立っていた。
 
こんな細いのに、私をおんぶしてくれたのか。
男の子って、凄いんだなぁ。
ちょっと変な事で感心してしまった。

男の子が笑顔になった。
物凄い柔らかい、ちょっと大人っぽい笑顔だった。
中学の同級生にこんな笑い方する奴はいなかった。

「俺、ヒナガタゆうねん。大阪から来てん」
「あ、あ、私は」
「前園翔子さん」
「あ、そっか、知ってるんだ」
「さっき知ってんけどな」
 
ヒナガタくんの左手に何か見えた。
私が見慣れているものの内の一つ。

消毒液に浸した脱脂綿。

「とりあえず消毒しとこ」
「なんで」
「なんでて、わかっとると思うけど、血出とるし」
「見たの?」
「見えてもうてん」
「ほ、ほっといて」
「まあなあ、こゆんはほっとくんがいっちゃんええねんけどな。見えてもうたし、しゃあないやん」
「知らないフリしててよ!」
「ちゃんと、目立たんように処置するから、ええから左手貸し」
何こいつ。




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