A県本店事務所は駅より徒歩5分、目立つビルの中の12階。
そこから所謂「本店」は車で10分の某郊外家電店。
全県の店舗を毎日回る訳ではない。
通常は事務所に篭り、書類と企画、提案と言ったデスクワークに取り組んでいる。
菅野が書類から目を離し、外を見る。
窓の外もまた、ビルなのに。
「天気いいですねぇ杉浦さん」
「そうだね」
「本店行きましょうよ」
「えー…僕まだプレゼンの作成終わってないんだけど」
「後で僕が手伝いますから。視察視察」
「面倒だなー」
「視察も仕事でしょ」
杉浦の返事も聞かず、スーツを羽織る菅野。
それを眺めて、ああ、また言いなりだな、と杉浦は思う。
事務所には常々二人しかいない。
二人しかいないのが、危険だ。
菅野は自由にし放題。
いつ何時来客があるかもしれないのに。
それでも菅野は仕事が出来る。
オンオフの切り替えが早いのか、それとも。
元々オンオフなど無いのか。
スイッチの切り替えが無いからこそのフットワーク。
しかし目の前のPCが気になる。
今日中には仕上げたい。明日午前には本部も加えてのプレゼン。
「杉浦さん、原稿無くたってMC上手じゃないですか」
「ただ喋るだけなら得意だよ…でも企画のプレゼンとなると話は別だからなぁ…」
「杉浦さんがプレゼン、僕は明日MCだー」
「楽しみなのかんちゃん?」
「僕からべしゃり取ったら何も無いです」
ニヤニヤと笑う。
「なんなら僕、プレゼン代わりにやりますか?」
「やだ。菅野君にいっつも美味しい所盗られる」
「盗られる方が悪いんですよ」
酷い言い草。それも笑顔で。
最低で最悪の男だと感じる時がある。例えば今日。
隣県の社員が二人をこう評していた、と原田店竹中から聞いた事がある。
「杉浦さんも菅野さんも、『やっちゃったなー』感があるよねーって言ってましたケド」
竹中はじっとりした目付きで杉浦を眺めていた。
オカマの竹中、で県内では有名だ。
アスリートの様な細身の精悍な体型に短髪。菅野より二つ年上。口調は「オネェ」。
「タケナカ嫉妬しちゃいましたケド。『やっちゃったなー』って言うからスギサマとカンカンたらやっちゃったのかしらって思ったらそういう意味じゃなくて、どっちかって言うとホラ、『やっちまったなー』の方なんですって。って言ってましたケド」
そうじゃなきゃ嫌だわスギサマ、カンカンと先にやっちゃうなんてタケナカ許せない!そんな事をほざく部下に全身が鳥になる。
『やっちまった』感は確かにある。
菅野がそうだからだと思うが、自分も調子に乗りすぎる。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -