楽しげにホテルの部屋番号を告げている。
とてもじゃないけど、菅野くんみたいには出来ない。
杉浦は思った。
自分なら恥ずかしい。
ホテルから宅配ピザを注文。
出来ない。
なんとなく、出来ない。
恥ずかしい事ではないのに。
通話を終えて、菅野が浮き浮きとした表情でソファに座る杉浦の元へ戻って来た。
ニヤニヤ笑っている。
「ビールは風呂から上がって、ピザ届いてからです」
「そうだね。菅野くん、スーツ脱げば?」
「そうですねー」
休みだった杉浦は私服で菅野を営業所まで迎えに行った。
業務を終えた菅野は笑顔で杉浦の到着をビルの下で待っていた。
働く菅野が好きだ。
スーツを纏う菅野が好きだ。
それを脱がせるのも、好きだ。
上着をハンガーに掛けて、それから菅野は風呂へ向かって行った。
「おー!凄い!凄いですよ杉浦さん!」
呼ぶ声に誘われて杉浦も風呂へ向かった。
風呂場の前の洗面台が豪華で驚く。
全面に鏡。
そこに映る菅野。
指差す方向には。
「デカい浴槽だねぇ」
「こんな凄いジェットバス、初めてじゃないですか?!」
興奮する菅野の声が風呂場に響く。
二人で風呂場に足を入れる。
乾燥していて、床はカラカラだ。
「これ、光りますよ。レインボーイルミ」
壁に付いたパネルのボタンを押すと、湯の入らない浴槽の中でライトが点灯した。
赤、青、黄色。順番にゆっくりと点滅して。
「お湯張ったら綺麗なんだろうね」
「そうですね!楽しみだな」
菅野は心から楽しそうにしている。
湯を入れはじめた。
二人で外に出る。
ソファに戻り、座って、再度部屋を眺め見回した。
「豪華でいいですねぇ」
「いいですね。菅野くん」
「はい、なんでしょう杉浦さん」
「ネクタイも外したら?」
「外してください」
そう言って、喉を突き出すようなポーズ。
細い首。
艶かしくて、視線をずらしてしまった。
菅野が笑う。
「セクシーすぎましたぁ?」
「バカな事言うんじゃないよ…」
「何で目線合わせてくれないんですか?」
「菅野くん」
「はい」
「かんちゃん…かんちゃんの場合はね」
セクシーなんじゃない。
いやらしいんだ。
そうは言えず、目線を菅野の胸元に合わせて、顔を見ないようにして。
菅野のネクタイを緩める。
その間、菅野は黙って杉浦の指先を見つめていた。
静かな空気。
部屋の中に音楽もテレビの音も無く。
衣擦れの音と、風呂で湯が溜まって行く音だけが小さく聞こえて、それさえも卑猥な音に思えた。
ネクタイを取ると、菅野は杉浦の首に両腕を絡ませて顔を接近させた。
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