なんでダメになったかって、それは子供が出来たから。

なんでずっと好きのままではいられないんだろう。

恋ではなく、愛ではなく、友情の方が近かった。

戦友が恋人だっただけだ。
逆だろうか。
恋人が戦友だったのか。


何故忘れてしまうんだろう。


何故、目の奥が痛くなるんだろう。
何故、一緒にはいられなくなったんだろう。

今はただ、彼が幸せであればいいと祈り続けている。



ヒデキが大きくなったら、その名の由来を訊かれるんだろうな。
そうしたら妻が答えるだろう。

とてもお世話になった人。
パパがね。

苦笑しながら僕は頷くんだろう。

とてもとてもいい子だったから、名前を貰ったんだ。
ヒデキ。
彼の様になってくれたらと思って。

思わぬ年齢で授かった宝物に僕は夢中になってしまうんだろう。

それまでの人生は一体なんだったのかと思うほど、僕はヒデキに夢中になるんだろう。

一緒に野球をしよう、僕がキャッチャーだ。
ヒデキ、君は好きなだけ好きな球を投げたらいい。
僕が全部受け取ってあげよう。

それからサッカーを。
そしてバスケを。

一緒に海へ行こう。
一緒にキャンプへ行こう。
色んな所へ。

僕より大きくなってくれ。
なかなか難しいのかもしれないけれど。

夢中になりすぎて、あんなに大切だった誰かの事を忘れてしまうんだろう。

名前も思い出せないで。

ヒデキ、どうして君にヒデキって名付けたんだったっけ。
そうか、美由紀さんの初恋の人だったかな。
違う?
ああ、僕がヒロキだから、似た名前に。
違う?
違ったかな。
そうだよ、僕がヒロキだからだよ。
杉浦ヒデキ。

いい名前だよね。


なんで駄目になってしまったか?
何が駄目に?
駄目になんてなってない。
ずっと、ヒデキと一緒じゃないか。




「痛い」
「あ、すみません」
耳の中の掃除。
意外にも菅野が器用で。
うとうとしてしまったら、これだ。
心地良い夢をみていたのに。

「奥まで入れないでって言ったじゃないかぁ」
「すみません、ちょっと手元狂っちゃった」
アハハ、と笑う菅野。
「杉浦さんの鼓膜が破れたら、責任取りますよ。僕が杉浦さんの耳になります」
「なんだいそのプロポーズ」
「プロポーズですよ」
「そういうのは僕から言う物じゃないのかな…」
「どうして?」
「だって」
君を抱くのは僕だから。
そういうのは僕みたいな立場から言う物じゃないのかな。
「あんまり難しい事考えないで下さいよ、杉浦さん。難しい話は嫌いでしょ」
「うん、嫌いだ」
「黙って、夢の続きでも見ててください」

カリカリカリ。
耳の中で音がする。

「何の夢だったか忘れたよ」
「痛くて?」
「そう、痛くて」

心地よい夢だったけれど、どこか胸の奥が痛い。
そんな夢。


20090917完



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