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だがいつもエスは、あと一歩の所でエスの本体を逃してしまう。
自分を壊したくない心から、派手な奪還ができないのだと、圭は思う。
しかしそれは圭にしても同じ事だった。
圭はエスの脳に入っている依栖の記憶・心、つまりメモリーカードを必要としていた。
エスのメモリーカードさえあれば、依栖を元の体に戻すことが出来る。「終わり」に洗脳されたエスだが、本体とメモリーカードさえ同一化すれば、依栖と圭はまた以前の様な仲の良い兄弟に戻れる。
だが圭は、少女エスのメモリーカードを壊さずに依栖を取り戻すのは困難だと思っている。
怖いのだ。
少女の体をしているとはいえ、中身は兄なのだ。
撃てない。
だから依栖の本体を使う。
圭自身が使いやすいようにプログラムを組んだメモリーカードで擬似的に依栖を蘇らせる。
擬似依栖は思考を持たない。
役目は少女エスを混乱させるだけ。
役立たずのただの人形に過ぎない。だが、それでも圭の宝物だ。
圭の後方で銃声がした。依栖が撃ったのか。見えない依栖とエスに声をかける。
「エス!死んだんか!」
「何心配してんねんアホか!要はジブンが『終わり』に来たら話は早いねんで。ジブンが俺の本体持ってきたらええねん」
ガサツな返答。
それがエスだ。
兄だ。
圭は答えた。
「それがわからん。何でお前、『はじまり』裏切ったん」
返答は無かった。
代わりにマシンガンの連続的な発砲音が聞こえてきた。
少女の持つ武器は、小さな手に似つかわしくない大きな大きな、アメリカ製のM60だったはずだ。
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<続>