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「ジブンが来ぉへんねやったら、俺から行く」

素早い動きでスーツケースを開ける。
中には、圭よりも長身らしい青年の体が、膝を抱えるようにして収納されていた。
圭はやはり神経質そうに青年の左耳の後ろに触れる。
2cmほどの縦長の切れ目を見つける。
青年の着ているスーツの胸元から薄いメモリーカードを出す。
手早くしかも丁寧に、切れ目にそれを挿入した。
3秒で青年は瞼を開けた。圭は言った。

「依栖(エス)、出番や。お前の「心」、取り戻すで」

瞬間、圭の肩すれすれに銃弾が流れてきた。
圭は弾が飛んできた方向を憎々しげに振り返る。

「エス!ええ加減にせんと、この本体壊してまうぞ」

「お前にそなこと出来へんわ!ヘタレやもんな」

可憐な少女の口調とは思えない怒号が遠くから聞こえてきた。
甘い声には似合わない。
弾が飛んできた方向から聞こえてきたのではない。
エスはこの倉庫に仕掛けを作っていたのだろうか。
圭は天井全体に向かって声を上げた。
焦燥感が募り、またしても神経質そうに頭を掻く。

「ヘタレちゃうわボケ。行くぞ依栖!あのクソ兄貴、今日こそ連れて帰ったる」

「兄貴」と呼ばれた少女の甲高い笑い声が倉庫内に響いた。

青年依栖がスーツケースから腕を伸ばした。
圭がその手を捕まえ大きく引っ張る。
依栖の体がスーツケースから全部出てきたと同時に、圭は依栖の手に44マグナムを握らせた。

「殺てまえ、メモリー以外」

依栖はその声を聞いていないのか、頷きもせずにエスの声を認識した方向へ走っていった。
圭は依栖とは逆方向に走る。
自分の腰のホルダーから九十四式と呼ばれる旧日本陸軍の銃を取り出した。
コンテナの隙間に入る。

エスは、依栖を狙わない。
狙ったとしても、全ての動作に支障が出るような射止め方はしないだろう。
何故なら依栖はエスの本体だからだ。
自分の体を傷つけるようなことはしないはずだ、と圭は計算する。
これまでも圭はエスと幾度と無く対戦した。




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