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ハレルヤ!世界ははじまった。

桜吹雪。乾いた道路。舞い散る花弁。冷静な風。

ハレルヤ!ハレルヤ!新しい世界よ!

遠くから大勢の東京市民達のシュプレヒコールが響いてくる。
これが新世界だ。
新時代だ。

圭はその声を右耳で拾っていた。
ここは新時代から遠く離れた都内の港湾倉庫群。
今は圭は新時代を喜ぶ時ではない。
目の前の敵を捕獲するのが先決だ。
神経質そうな少し高いキーで圭は叫んだ。

「戻って来ぃやぁ、エス!」

圭の視線の先には黒いミニドレスに身を包んだ十歳位の少女がいる。
少女は圭を一瞥してから、身軽な動作でひらりと港湾倉庫の中に駆け込んだ。
桜の花弁と共にスカートの裾と砂埃が舞う。
圭も後を追う。
片手にはカートに乗せた大きな旅行用のスーツケース。
このスーツケースだけは忘れられない。
圭の宝物が入っている。
圭はガラガラと大きな音を立てて薄暗い倉庫の中に入った。

先に入ったはずの少女、エスの姿が見えない。
見失ったか。
178cmの長身の圭。
その足の長さで、小さなエスを追えないはずがない。
エスは逃げたのだろうか。違う。
エスがスーツケースを持った圭を残して「終わり」のアジトに戻る訳がない。
今は、圭にとってもエスにとっても最高の好機なのだ。圭はまた叫んだ。

「エス!聞こえてんねやろ!返事くらいせぇや!」

倉庫内に残響。
それでもエスは返答しない。
圭は少し焦る。




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