梶花は、モテない。
見た目が女性の好みに合わない、らしい。
確かにやや太めかもしれない。
無口だし、決して明るい性格でもない。
だが井川にとっては正にそれがストライクでさえあったのだ。
井川はそこそこに女性にモテはするが、残念な事に井川の恋の相手は同性に限られていた。
美少年ではなく美青年でもなくマッチョでもか細い人物でもなく、ややふくよかで、物静かな、そんな同性。

梶花は理想に近かった。

可愛いな、と思った。
井川はそれをすぐに梶花に伝えた。

「花が好き」

単純化されたその言葉に、梶花は一瞬ムッとしたように唇を尖らせて、その場から立ち去った。
梶花の部屋。

通称マエノ団地。
マエノ電機の社員寮となっているマンションの一室。
独身者の多いそのマンション内で、梶花の部屋は男性社員達が入り浸る場所となっていた。

ある者はゲームをし、ある者は漫画を読み。
ある者はインターネットでエロ画像を集め、ある者はソファで寝ている。

梶花の部屋は居心地が良い。

梶花に食材を差し入れると、調理されて出てくる。

梶花は本人の前で「寮母さん」と呼ばれていた。

その寮母さんが、井川の傍から離れ、キッチンへ向かい、何かを持って戻ってきた。

梶花はムッとした表情のままでそれを井川に差し出し、また井川の隣に座った。

井川が手にしたのはチョコレートクッキー五枚。
自分の掌と梶花を往復して見る。

梶花が呟く。

「焼きすぎて硬くなった。美味くないかも」

梶花はゲームをしている同僚達を眺めている。
井川を見ない。
決して見ようとはしない。

可愛いな、と井川は思った。



20090520完


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