「キスマ付けちゃった」
「ちょ、ショウさん!」

喉仏の脇に吸い付いたショウの様子が、なんとなく危険だと感じたら、これだ。

早朝。
5時に店を終えたトシが真っ直ぐに向かうのは、客がいれば6時まで開店している居酒屋七輪屋。
ショウは雇われてマスターをしている。
以前付き合っていた恋人の父親がオーナーだ。
別れた今も、可愛がって貰っている。

以前の恋人は女性で、今の恋人は。

「ちょっとショウさん、なんてことすんだよぉ」
「チョーカーとかで隠せないかな」
「こんな中途半端なとこ、無理だよ!どうすんだよぉ、またからかわれる…」
「誰に?」
ニコニコと嬉しそうに。
トシがからかわれる事が楽しいらしい。
ふて腐れる。

「ダイセーくんとかに怒られるよ」
「なんて怒られんの?」
「仕事なんだと思ってんだよ、って。俺ただでさえ仕事出来ないのに」
「ダイセー厳しいもんな」
うんうんと頷く。
先輩のダイセーは自分に厳しく他人にも厳しい。甘いのは客に。それも金払いのいい客にだけ。

「仕方ない、ダイセーに謝ろう」
「ちょっと待ってよショウさん!謝るの俺にだろ」
「トシくんは気持ち良くなっただけじゃん」

そんな。
勝手にキスマークつけておいて。
楽しそうに笑って。
ショウは嬉しそうだ。

「久しぶりにトシくんに会えたから、俺嬉しい」
本当に嬉しそうに。
たったの三日間、会えなかっただけだ。

自分達の仕事は一般の人々とは生活時間が真逆で。

リズムが少し狂うだけで、会いづらくなる。

それもショウが昨日までの二日間、客入りが少なくて閉店を早めにしたせいなのに。

会いたかったのはこっちなのに。

「…俺、腹減ったから来たんだけど」

いつまで隣に座ってる気なんだろう。
嬉しいけれど。

「何食いたい?」
「ピザ。海鮮ミックス」
「えー!オーブン前で見張ってなきゃいけないんだよ、その間トシくんから離れてなきゃいけないじゃないかぁ」
「俺、腹減ったの…ショウさんのピザ食いたいの」
「生春巻は?」
「やだ。がっちり食いたいんだもん、ショウさん早く」
「うー、じゃあ後でもっとキスマつけさせてね」

思わずショウの二の腕を殴った。
痛そうにしながらも、ショウは嬉しそうに笑っている。

「見えないとこなら、…いいけど」
「うんうん」

ショウはやっと立ち上がり、厨房へと向かった。

店の窓。
外は明るくなりつつあって、トシは欠伸をした。


20090716完



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