![](//static.nanos.jp/upload/m/mujiknh/mtr/0/0/20100209073746.jpg)
宮川くんはペットです。
僕の、じゃありません。
杉浦さんと菅野さんのペットです。
…可哀想に。
今日もこんな感じ。
「宮川くん宮川くん、商管まで走って、入荷なってるっぽいから!はいダッシュ!」
杉浦さんがパチンと両手を叩く。
条件反射でダッシュする宮川くん。
一階の商管に向かって走って行った。
でも途中で。
「宮川くん戻って!ダッシュで!」
菅野さんがニヤニヤ笑いながら両手をパチンと叩く。
条件反射で宮川くんは踵を返して売り場に走って戻る。
理由はわからないのに、売り場に戻る。
杉浦さんが変な顔してる。
「どしたのかんちゃん。宮川くんに入荷したの持って来させるつもりだったのにー」
「あ、そうだったんですか?てっきり宮川くん、杉浦さんに虐められて悲しくて逃げ出したんだと思って」
これには宮川くんも反論だ。
「だ、誰が悲しくて逃げ出しますかっ!」
多分宮川くんは、「杉浦さんじゃあるまいし」とか言いかけたと思う。
言わなくて正解だったと思うよ。
菅野さんに虐められて、杉浦さんは時々へこんでたり落ち込んでたりする。
それで宮川くんを虐めてストレス発散してる。
可哀相な宮川くん。
ストレススパイラルの一番下方にいるんだもんな。
「岡部っちも俺を虐める…」
「え?」
眼鏡がズレそうになった。
杉浦菅野のバカコンビが帰って、ヘトヘトになってた宮川くんを慰めたくて、飲みに誘った。
チェーンの居酒屋で、カシスオレンジとカルピスサワーを頼みながら。
カシオレ一杯で酔っ払ってしまったのかな、宮川くん。
「見て見ぬふりするのも虐めじゃないか」
恨めしそうな顔して宮川くんが僕を睨む。
僕は慌てる。
「そ、そんなつもりないよ!」
「岡部っちは…バカコンビに可愛がられてるからなぁ…」
「可愛がられてないよ、可愛がられてるのは宮川くんの方でしょ」
「あんな可愛がられ方されたいかぁ?」
あ、あれは嫌だ。
宮川くんは僕と違ってエルデータの正社員。僕は契約社員で、近々正社員登用試験を受ける予定。
正社員の宮川くんだから期待が掛かってるのもあるとは思う。
思うけど。
「虐め、だよな」
「だろ。杉浦さんなんかもう、前はあんなんじゃ無かったのに…菅野さんの影響受けて…」
そう言って宮川くんはため息ついた。
そういや前に宮川くんは変な事言ってたっけ。
バカコンビはバカップルなんだ、とかなんとか。
杉浦菅野がバカコンビなのは有名だけど。
「バカップルの奴らチクショー」
なんか、宮川くんが言ってる。
病んでるなぁ宮川くん。
この店のカシオレはアルコール高いのかな。
「あ」
僕は見ては行けない物を見てしまって、宮川くんの頭を掴んでテーブルに押さえ付けた。
僕も小さく屈んだ。
「何すんだよ岡部っち」
「しー!バカコンビ来た!」
小声で。
宮川くんが目を見開く。
「秋田戻ったんじゃないのかよ」
「こっち泊まって明日帰るのかな。そんな距離じゃないのにな」
「それだ、泊まりだよ。バカップルめ」
「バカコンビだろ?カップルって」
「…信じないかもしんないけど、杉浦さんと菅野さんて、付き合ってるから」
「嘘だ。ゲイだっての?」
「そう」
「二人とも結婚してんじゃん」
コソコソ話をしてたら、宮川くんの携帯が鳴った。
「ひゃあ!」
二人でビックリして大声あげてしまった。
僕らはボックス席にいた。
カウンター席に…杉浦菅野コンビがいて…。
目が合ってしまった。
杉浦さんと菅野さんは顔を見合わせてから、ニコニコニヤニヤ笑って、こっちに向かって歩いて来た。
しっかり、手にジョッキを持っている。
「お疲れー!今宮川くんにメールしたんだよ、見てくれた?」
菅野さんが元気に笑う。
「明日の目標値設定したんだけど、出来るよね」
と、杉浦さん。
なんかもう無茶苦茶だ。
宮川くんはビビって泣きそうになってるし。
僕も
「お疲れ様です、座って下さい」
とかしか言えなくて。
それから閉店まで四人で飲むハメになってしまった。
宮川くんが言ってた事が頭に残って、杉浦さんにも菅野さんにも、今日はどちらに泊まるんですか、なんて質問したくても、出来なかった…。
20090716完
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