店舗巡回を終えて車で秋田市内へ向かう。

遅い時間になっていた。

「杉浦さん、あれ」
「ん?なーに」
「露店だ」
「お祭り?」
「そうみたいです。寄りましょうよ」
「いいね」

小さな町の小さな路地に少なからず露店が広げられていた。
子供達が浴衣を来て、楽しそうにはしゃいでいる。
連れ添う大人達も笑顔だ。

車を銀行の駐車場に停めて、二人で外に出る。
スーツの二人連れは、杉浦と菅野だけだ。

「僕ら違和感ありすぎだね。スーツって。仕事帰りもいいとこだ」
「誰も気にしてませんって」
「そうかな」
「そうですよ。あ、フランクフルト!食べましょう!あ!クレープ!食べましょう!」

食うかセックスか仕事するか。
菅野はわかりやすい。明確。
子供の様な大人。

両隣に並んだ店からフランクフルトとクレープを選び、近くの商店の軒先に設置された長椅子に座った。

「あとはかき氷でもあればいいなぁ」
「お腹壊すよかんちゃん」
「壊しません、僕って丈夫なんです」

祭囃子が遠くから聞こえて来る。

「何の祭なんだろうね」
「なんでしょうねぇ…人波があっちに結構流れてるんですよ。神社でもあるのかな」
そう言って、菅野は杉浦を下から覗き込む。
笑っている。

「何」
「夜店、祭、神社……逢い引き。連想ゲームです」
「逢い引きって」
なんて懐古的な響き。

「何の神社か知らないけど、見に行ってみましょうよ。子宝かもしれないし」
菅野の唇の脇にクレープの生クリームが付いている。
何かを想像してしまった。
杉浦の視線に気がついたのか、菅野は舌でそれを拭った。
ニヤニヤ笑っている。

「子宝って言っても僕んちのじゃ無いですよ、杉浦さんのね」
「僕らはもう無理だよ。子供。欲しいけど」
「家内安全、商売繁盛、なんだっていいですよ。どうせ神頼みだもん。杉浦さんそれ残す気なら僕に下さい」
「いいよ」
半分以上残してしまったクレープを菅野に渡した。
嬉しそうに受け取り、立ち上がる。

「何奉ってんだか知らないけどお参りしていきましょ。あっちだと思います」
「で、暗がりに連れてかれるんだ僕は」
「誘拐しちゃうぞ杉浦さんを」
「誘拐されるだけじゃないんだろうな」
「勿論いたずらもします」

なんて会話。
子供を持つ親の台詞じゃないよ菅野くん。
不謹慎すぎる。

思いながら、杉浦も立ち上がり、菅野の後を追う。

人波。
小さな子供達が大きな風船を抱えて。
中学生くらいのカップルとすれ違う。
女の子は浴衣を着て、頬を染めて男の子を見つめて。
孫を抱えた祖父が、名も知らない歌手の歌をステージ下から眺めていた。

夜店のこの雰囲気。
胸が躍る。

スーパーボールと金魚の店の間から、菅野が手招きして呼ぶ。

「こっちですよ」

菅野の隣に立つと、篝火に囲まれた石の階段が見えた。

「上の方、結構暗いですよ。雰囲気いいですよね」
「…本気?」
「何が?」
「その、本気でいたずらされるのかな僕は。君に」
「そのつもりですよ」
ニヤニヤ、ニタニタと菅野が笑う。

付き合おう。
うん、付き合おう。菅野くんに。
菅野の手を握った。
引っ張る。

「かんちゃんクレープ早く食べて」
「はーい」
嬉しそうな返事。
「僕がかんちゃんにいたずらしたい」
「積極的ぃ」
ふざけるように。

階段を上がりきると、薄あかりの中に小さな神社が立っていた。
人の姿は無い。
その奥の林に向かう。

「かんちゃんクレープは」
「食べちゃいましたよ」
遠くに篝火が見える程度の所まで。
周囲は真っ暗で、ただ、菅野のニヤニヤと笑う気配だけは確かに感じられる。
徐にに口づけて。
生クリームとチョコレートの甘い味、香り。
舐める。
菅野の口の中を舐める。
菅野も同じ様に杉浦の唇や舌を舐める。
舐め合う。

菅野が杉浦のベルトに指を掛けた。
器用に外しはじめる。

いたずら。
いたずらばかりしているな、そんな事を思いながら。

祭囃子の音が遠くから聞こえて。

非日常の雰囲気に、酔う。


20090716完



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