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俺も自分の携帯を見た。
確認。よし、まだまだ時間はある。
大阪男の待ち合わせ相手が見たい。
10分くらい、俺も待ち合わせかなんかしてるフリしていたら、大阪男の声が後ろから聞こえた。
「きーたん、遅刻はあかんて。マジで。ホンマ二度目は無いでー」
そっと振り向いたら、うわー。
こんな髪型の高校生ってドラマの中でだけじゃなかったんだ、みたいな、なんていうか…ああ、でも地元の飲み屋で働いてる近所の姉ちゃんは仕事に行くときこんな感じにしてたよなぁ、な。
そのお姉ちゃんは「アゲハって雑誌のコがこういうのしてたから美容院でやってもらった」とか言ってた。
巻いて巻いて、てっぺんボリュームつけて、で、制服。
中学生じゃなくて、高校生っぽかった。かっこいいし。
「マジゴメンあーやん!きーたんさぁ巻き巻き気に入らなくて直してる内にワケわかんなくなって、内側巻いてんだか外に巻いてんだかウケんだけどマジでみたいな事なっててぇ」
キャハハ、って笑ってた。
わかった情報は、男が「あーやん」で女が「きーたん」。
俺はメール打つふりしながら更に二人の会話を聞いてみた。
「きーたんプリ画とイメージちゃうなあ。モビゲー載っけてたん、あれプリやんなぁ」
「ゲェー。あーやんも違うじゃん。なんかこう、さー」
「なんやねん。早よゆい」
「ぇぇー。言いにくいんですけどぉ」
「代わりにゆーたろか。『あーやんもっとオタクっぽい人だと思ってましたぁ』やろ?」
「うひゃ。バレた?だってそういう画像ばっかだったしぃ?日記もそういう感じの日記多かったし?ゲームとか?最初はきーたんヤバイ人に友希したかもって後悔したんですけどぉ。でもホラ、あーやんの顔アップしてたの見たっしょ?めちゃめちゃ美形じゃん!つってー」
「せやろ?まぁ大体そやねん。そぉゆわれんねん。オタなんはホンマやけど」
「あーそれはわかるー!でも顔とのギャップ激しすぎんだけどっ」
「顔顔ゆわんといて。これホンマにいかにもですーみたいな顔やったらきーたんも『東京いるんだったらオフろうぜー』みたいな事ゆわんかったやろし」
「いかにもは嫌ぁ。キモ!コワ!」
「それはそれで傷つくねんけどなあ。中身オタやし。ここで話してもしゃーないわ。そろそろ行こか」
あはは、と笑いながら二人は犬の前から歩いていった。
で、わかったことその3。
二人は今日はじめて「会った」らしい。
モビゲーで知り合ったらしい。
俺もやってるけど、実際に会ったりするんだ。
…禁止って書いてたような気がするけど。
携番知ってるくらいだし、顔も事前に確認できてたみたいだし、まぁそういう物なんだろう。
その4。
大阪男の「あーやん」は「オタク」らしい。
ゲームとかの。
ゲームは俺もやるけど、「きーたん」が最初は「ヤバイと思った」くらいだから、本当の、相当のゲームオタクなんだろう。
俺のクラスにもオタクはいるけど、あーやんみたいなのじゃない方の、「いかにも」の方だ。
その5。
「あーやん」と「きーたん」は、多分。
モビゲー内でもその名前を使ってる。
探したら出てくる。
俺は手にした携帯でそのままモビゲーの自分のページに行った。
友達検索をしてみた。
もしかしたら友達検索に出ないようにしてるかもしれないけど、それでも。
二人はいた。
間違いなくさっきの「あーやん」と「きーたん」だった。
「☆★あーやん★☆」のプロフには「大阪」とあったし、日記は今日の日付で更新されてて、しかもさっき更新されたばっかりみたいで、恥ずかし気もなく銅像の犬の画像も貼ってあって、日記の内容はこうだった。
待ち合わせやけど相手まだ来ぃひんし。
ちなみにきーたん。
俺も東京住み始めてまだ二週間やしなぁ。
渋谷言われても一人でどないしたらええねん。
待ち合わせをアキバにしてくれゆうてんけど、きーたんがアキバ知らんゆうし、それはまた一人で行くからええわ。
渋谷は渋谷でええねんけど。
今日は服買うてきます。
あとピアスと。
ほんできーたんと選ぼかーゆうて待っとんのに。
俺とおんなしよーに犬の前にぎょーさん人がおんねんけど、なんか気になる奴がおります。
エラい男前がおんねん。
顔とか服とかシュっとしとって、ありえへんくらい派手な赤さのコート着とる奴がおんねんけど。
タッパもそこそこあって、なんやろ、歳はおんなしくらいやろけど、モデルちゃうんーみたいな。
せやけど、そこはちゃうなぁ思たんは、靴。
俺的にはあの赤いコートには黒のシブいブーツやー。
あかんてバッシュは。
まあそこがスカシのテクかも知れんし人の事はどうでもええねんけど、あんまし目立つ男前やからそんなん思てみた。
あんまし見てもアレやしとりあえず犬の写真撮ってみましたー。
ほなまた。
…俺は今日中に黒いブーツを買おうと思った。
それから、自分のアバターにも黒のブーツを。
更に衝撃情報。
「あーやん」も「きーたん」も、俺と同じ
15歳だった。
あーやんのプロフには年齢しか書いてなかったから、もしかしたら学年は1個上の高校生かもしれないが、きーたんのプロフにはちゃんと
「4月から高校生」
って書いてた。
ショックだった。
都会の中学生ってやっぱり俺の地元の奴らに比べたら大人っぽい。
幾つかショックを受けて、脳が元気になったのかもしれない。
あーやんの携帯の音楽。思い出した。
あれはいつも年末に聞いてた。
M−1で芸人が出てくる時にかかってる奴だった。
そんなこんなで初東京を経験し、東京だけど都心じゃない高校の面接も翌日無事終了し、結果見事(?)合格した。
最初から合格するつもりの余裕があったけど、最終的に自信持って面接に臨めたのは「あーやん」と「きーたん」のお陰かもしれない。
あーやんは日記で俺をモデルみたいに男前(ただし足元以外)って褒めてくれたし。
犬の前からホテルに向かってチェックインして一眠りしてからもう一回モビゲーであーやんのページに飛んでさっきの日記を見たら、きーたんがコメント入れてた。
「きぃたんも見たょ!赤コォト!ウン確かにかっこよかったぁ〜。靴まで見るヨユウなかったケド顔はあーやんと同レベルだったょネ?」
地元では蔑まれてきた俺が、知らない都会の人に褒められてる。
なんか嬉しかった。
嬉しくて、自信がついた。
地元に別れを告げるのは寂しくなかった。
せいせいするぢゃーと思いながら荷物をまとめた。
中学の卒業式にも出ないで、俺はまた、東京へ向かった。
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