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余裕な顔して山手線に乗ってたら、俺の生まれた街から同じようにやってきて、さらし者になってる例の犬の銅像のある駅の名前が聞こえた。
ああ、渋谷か。普通にきてしまった。
降りて人の流れに沿ってたら、犬の所に出た。
なんだか派手なお兄ちゃんやお姉ちゃんがいるから怖くて、俺は犬を遠巻きに見てた。意外とデカくてまたビックリした。
写真撮ろうかと一瞬携帯を開けようとしたけど、それは恥ずかしいか、と思い、止めた。
どうせこれから何度も見る事になるんだろうから。
高校生になったら、都会育ちのお洒落で可愛い女の子と付き合うことになって、何度も渋谷なんか、来るんだ。
そんで、自分の気持ちが落ち着いたら、
「この犬の生まれた家の近くに俺の実家があってさ、ド田舎でさ」
なんて話もするのかもしれないんだ。
またニヤニヤしてしまった。
犬の傍に、めちゃめちゃ可愛い顔した女の子がいた。
俺よりちょっと年上っぽい。
髪の色は真っ黒だった。
その黒さは、なんというか、アレ。
染めた黒っぽさ。
オシャレで黒くしてるし、自分には黒い髪が似合うってわかってるって感じ色。
なんだか急に、自分のフツー過ぎる茶髪が恥ずかしくなった。
かっこわるいというより、田舎くさいって感じた。
黒い髪の女の子の耳にピアスが見えた。
髪型は、毛先を外側に跳ねさせたショート。
そこからチラチラ、シンプルなピアスが見えた。
うん、やっぱ俺も、高校入ったら、ピアスする。
通う予定の高校は、自由な校風だと言っていたし。
制服はあるけど、私服でもいいって言ってたし。
黒髪の女の子が手にしていた携帯から音がした。
……着信の音が、どっかで聞いた事のあるメロディだった。
あれ?
あー…なんだっけ?あのメロディ。
俺は音楽とかオシャレとか流行りとかに凄く敏感で(勿論それは田舎者特有の敏感さなんだけど)、だからこそ、その聞いた事のあるメロディが何なのかをすぐに思い出せないのが少し悔しかった。
音が止まった。女の子が携帯で話をはじめた。
そして俺はまたビックリした。
「おー。ジブン何しとん。遅いでー。俺もぉハチ公見飽きたわー。どこまで来てんねん。あーそう。ほなもうちょいやんなー。待つわー。ほななー」
俺が驚いた事その1。
生の大阪弁。初めて聞いた。東京なのに大阪弁。
いや、大阪弁じゃないのかもしれない。関西のどっかなのかもしれない。
でも、東北の隅っこの方で生まれて、ズーズー弁しか聞いた事のない俺には、ああいう言葉は皆「大阪弁」だ。
テレビでは聞いた事がある。
でも、生で聞いたのは初めてだ。
俺が驚いた事その2。
女の子じゃなかった。
男の声だった。
顔は丸っきり女の子みたいなのに、男の声だった。
いや、考えてみるとなんで女の子って思ったのかわからなくなってしまった。
そいつはゴツめのブーツ履いてるし、腰にチェーンあるし、黒いジーンズも男っぽいし、身長だって俺よりちょい低いくらいで、「男」だ。
顔だけが本当に女の子みたいで、綺麗と可愛いの間くらい…違うな。
「整った顔」って言う奴なのかもしれない。
正しい場所にきちんとパーツが填められてるって感じの顔。
すっげぇ細い。男にしては細い。
うーん、衝撃体験。
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