東北の田舎町を出る時には雪が降っていたのに。

さすが東京。天気がいい。雪の気配なんかしない。
コートなんか着てくるんじゃなかった。
恥ずかしい。

赤いコート。

田舎じゃ割りと目立ってて、家を出る時に祖母ちゃんが
「ヒデ、そんなんで東京さ行ぐの恥ずかしぐねが…」
って言ってたけど、赤なんか。

上野で降りた時はそうでもなかったけど、新宿まで来た時にはビックリした。
それまで育った街と、精々頑張っても「都会」と言ったら仙台しか知らなかった俺には驚きの、新宿。
カラフルすぎる新宿。色とりどりの、都会。

姉ちゃんが好きで俺も昔聴かせられた椎名林檎が歌っていたから、東口に出た。
東口がどっちかよくわからなくて適当に人の流れに任せてたらたまたま東口だっただけだけど。
へー。
ここがあの歌の主人公の庭の「大遊戯場歌舞伎町」って奴ですか。
午前中だったからなんだかよくわからなかったけど。

テレビではよく知っているはずの新宿は、空気を吸うと全然知らない街のものだったし。
乾いていたし。カラカラに。
 
それで、やっぱり、寒かった。
 
コートなんか恥ずかしいって思ってたけど、風が寒くて。
はぁん、これがビル風って言う奴なんだ、と。
ピューって。

あと言葉。

道行く人はドラマみたいな言葉遣い。最初は気取ってんなーとか思ったのに、これが普通なんだって気がつくのにはそんなに時間かかんなかった。
皆お洒落で。雑誌まんまで。
なんか、もう、色々と。

俺は思った。

絶対に、ここに住む。

いや、新宿には住めないし住めても住みたくないけど、「東京」に。
東京に、俺は住む。
高校生活は絶対に、ここで暮らす。
だから、明日の受験は、負けられないんだ。

 

新宿には「観光」で来た。
泊まる所は渋谷。

受験会場はもっと遠いんだけど。
「東京」に憧れてたから。

買い物したかったし。

田舎の奴らは持ってないかっこいい服とか靴とかバッグとかアクセを買おうって。
小六から貯めてたお年玉を全部引き出したら結構あって、大人でもこんなにあったら相当いいのがたくさん買えるんじゃないかってくらいで。

受験の方は自信がある。
受験…受験というか、推薦の面接だけで。

面接さえ上手くやれば必ず合格する。
一応スポーツ推薦。バスケ部の。
地元にもバスケが強い高校があるから、そこへ行ったらいいのにと家族も先生にも言われたけど、冗談じゃない。

俺はあんな所から出たくて、どこでもいいから逃げ出したくて、そしたら俺みたいなバカでも、ちょこっとバスケ出来て、ちょこっとのお金とちょこっとの推薦文があるだけで入れてくれそうな高校があったから。

だから、余裕。

 

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