「……………」
「……………」


田中が行ってから、私はヨシタケくんの部屋の扉の前の廊下に突っ立っていた。振り返ることはできない。ヨシタケくんが私に同情の眼差しを向けているのが手に取るようにわかるからだ。どうしよう、田中を追い掛けたら半年間パシられなければならない。それだけは避けたいし、でも田中の部屋には入れない。ヨシタケくんの部屋にいるなんて、そんなおこがましいことできるわけがない。自宅に帰ろうにも荷物は田中の部屋の中だ…帰りたいのに帰れない。携帯の充電器の予備なんて持ってないし…そうだ、このまま田中の部屋の前で待っていよう。いつかは帰ってくるんだし。つーかあいつマジ無責任過ぎだろ…!


「あ、あのー…」
「あ!ご、ごめんね!私、田中の部屋の前で待ってるから、気にしないで!」
「え」

──バタン


ヨシタケくんの部屋の扉を閉めて溜め息をつく。さて、田中が戻ってくるまで廊下に座って待っていようじゃないか。田中の思う壺になんかならないんだからな!
そう覚悟を決めた私は田中の部屋の前に腰をおろした。いくら春だからって気温は未だ安定していない。そしてよりによって今日は気温がいつもより低い。神は私の味方ではなく田中の味方についていた。


「……やっぱ寒いな…」


廊下が寒いことに私は体育座りをして顔を俯かせた。ちくしょう、田中帰ってきたら覚えてろ…!







みょうじさんが出ていって10分が経った。俺はファミコンの電源を入れてゲームをしていた。しかし、何故か集中できない。死んだの何回目だろう。俺は舌打ちをしてコントローラーを投げ捨てる。俺が集中できない理由…それはみょうじさんのことだった。
季節は春だというのに未だ気温は上がったり下がったりと不安定な状態で、今日は一段と冷えるらしい。もちろん廊下だって寒いだろう。あの人、大丈夫なのか…。


「あー…くそー」


ガシガシと頭をかき、自分の部屋の扉を見て溜め息をはいた。廊下寒いよな、あの人もきっと寒がってるよなぁ…。そう思ったら何故か罪悪感を感じた。なんで自分が罪悪感を感じなきゃならないんだ。これはあの姉の責任であり、自分には関係ない。俺は押し付けられ、あの人は巻き込まれたのだ。


「……どうすればいいんだよコレ」


そうは思ってもやはり姉さんの友達とはいえ、女の子が寒いのに廊下で待つだなんて健気すぎる。俺だったら絶対帰るのに、あの人はあんな姉さんの帰りを廊下で待っているのだ。健気すぎる。
俺は携帯を手にしてヒデノリにメールした。内容は、さっきのやり取りと今の現状を詳しく打って、最後に俺はどうしたらいい?と添えて送信した。


──ブーッブーッ

「はやっ!」


ものの1分でヒデノリからの返信が届いた。あいつ暇してんのかよ俺泊まらせろよ、そう思ったがここはまず落ち着いてメールを開いた。


"お前なぁ、姉の友人とはいえ廊下で待たせておいて自分は無視するなんて紳士失格だぜ"
「紳士になったわけじゃねぇんだけど」
"そうだなぁ。そこはアレだろ、自分の部屋に招き入れてやっちまえ"
「最低、こいつ最低…!」
"なーんてね☆冗談冗談。まぁでも自分の部屋に招き入れたほうが罪悪感感じないんじゃね"
「だよなぁ…でも変に思われたくねぇし」
"ていうか、お前部屋に入れなかったら姉に最低呼ばわりされるんじゃねぇか?その友人が他の人たちにあることないこと言いふらすかもしれねぇぞ"
「!?あ、あるかも…!」
"ヨシタケの姉の友達なら十分有り得るからな"


ヒデノリと話し合った結果、俺は覚悟を決めてあの人を部屋に招き入れることにした。震える手で扉のドアノブを回すのだった。

みょうじさんのもとへ、いざ出陣!

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