田中の部屋に来たはいいがこれといって何かすることがない。田中はお母さんからのクッキーをボリボリ食べてるし。ちょっとどころかかなりクッキーのカス落ちてるよと言うと誰がカスだよ!と言われてしまった。いや誰も田中をカスだなんて言ってないよ。何もすることがないので田中の部屋を見渡してみた。クローゼットのほうへ視線をやると、クローゼットの隙間から何か布のようなものがチョロっと出ていた。もしかしてもしかしなくともあれは洋服の布ではないだろうか。あれか、田中は部屋を整理整頓してるんじゃなく、とりあえず部屋に散らかってたものをクローゼットに詰め込んで場をしのごうとしていたのか。
田中のどや顔が脳裏をよぎった。


「あいつどーだった?」
「え!?あ、あぁ…金髪だったのにはびっくりしたよ」
「バカなくせにかっこつけたがるんだよねー。茶髪ぐらいが丁度いいっていうのにさ」


田中は茶髪だ。自分達が通っている高校の校則は厳しいと言われているが頭髪についてはなにも言われない。校則は厳しいくせに頭髪についてはなにも言わない学校は珍しいと思う。ちなみに自分は真面目だとよく言われる。頭はあまり良いとは言えないけど茶髪にはしていない。真っ黒の髪に中途半端な長さだ。この中途半端な長さだと寝癖が酷いことになる。毎朝寝癖と闘っているのだ。
まぁ私のことは長くなるからここまでにしておくとして。

田中の弟がまさか金髪にしてるなんて思いもしなかった。それ以外だと本当に普通の少年って感じがするんだけど。でもなんか妙に似合ってるというか…あんまり違和感感じないんだよね。


「あいつと何か話した?」
「自己紹介程度しか話してないや」
「あっそう。んー、あんたみたいな人だったらあいつも程々に喜ぶんじゃない?」
「程々にってなにその中途半端な表現!」
「だってあんた中途半」
「中途半端で悪かったな!」


どうせ自分は中途半端だ!髪型も中途半端だしな!
私はこうしていつも田中に弄ばれている。田中の持っていたペットボトルをひったくり、口に運ぶ。炭酸がきつくて少ししか飲むことができなかった。


「ね、あんたあいつにアタックしてみてよ」
「はぁ?なんでそうなんの。私が紹介してって言ったのはただ単に興味があっただけで」
「興味があるならアタックできるでしょ」
「いや興味があるからアタックするなんて、そしたら私色んな人にアタックしなきゃならなくなるじゃん」
「なにあんた色んな人に興味持ってんの?キモ」
「好奇心旺盛なんだと思ってくれ!」


田中は少し引いたような顔をしていた。そう、私は好奇心旺盛なんだよ。流石に興味がある人でも知らない人だったら話しかけたりしないけどね。今回の標的は田中の弟ということで、第三者の田中を間合いに入れて接触することができたので私はこれだけで満足だった。それなのに田中は友達である私に、弟くんにアタックしろなど無理がある。


「確かに興味はあったけど、アタックするほどじゃないって」
「ま、そうだよねー。あいつバカだし」
「あんたは弟のことバカとしか言えないの?」
「だって本当のことだもん」
「………」


どや顔で言う田中に私は頭を抱えた。これじゃあヨシタケくんも嫌になるわけだ。私も田中が姉だったら絶対関わりたくないって思う。

とりあえずさ、あんた、あいつと交流深めてこい。んで私に報告しろ。

目が点になるとはこのことを言うのか。勉強になりました。ていうか私と弟くんが交流して田中に報告なんかしたら、絶対私と弟くんをからかうに違いない。これだけは断言できる。しかし断れば血を見るのは明らかだったので、私は頷くしかなかった。田中のニヤァとした笑みに私は拳を作るのだった。







『悪い悪い、今充電できたとこ』
「ヒデノリ、助けて!俺も髭剃り落とされる!」
『いやお前髭生えてないじゃん』
「はっ!そうだった!」
『なに?ヨシタケどしたの?』


やっとヒデノリに連絡がついたヨシタケはメールが返ってきたのと同時にヒデノリに電話をかけた。何よそんなに俺と話したかったの?と言われたが、それを無視し今の現状を報告した上で泊まりに行っていいかと聞いた。友達ならOKを出してくれるだろうとヨシタケは期待していた。


『ヨシタケ』
「よし、じゃあ今から荷物まとめてそっち行くわ」
『いや、その必要はない』
「え?」


その必要がないということはどういうことだろう。まさかヒデノリ、お前俺に服貸してくれるのか?いやそんなことするよりも自分が持っていったほうがいいに決まってる。
ならヒデノリはなんで必要がないと言うのか…!

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