近付いてくる足音に、顔を音のする方へ向ける。そこにはヨシタケくんがペットボトルを二本持ってきているのが目に映った。ヨシタケくんはそのまま私の隣に腰をかける。そして二本のうち一本を私に差し出した。


「どぞ」
「あ、ありがとう…」


ヨシタケくんからペットボトルを受け取る。ペットボトルのラベルを見ると緑茶と書いてあった。
せっかく買ってきてくれたのに飲まないわけにもいかず、ペットボトルの蓋をあける。ヨシタケくんもそれを見てか、ペットボトルの蓋をあけてお茶を口に含んだ。
私も少しだけお茶を飲むと、肩の力が抜けた気がした。


「その、慌ただしくさせてすんません」
「えっ、あ、ううん、大丈夫大丈夫。それよりもお茶ありがとう。お金…」
「あ、俺の奢りなんでいいっす。無理やり走らせちゃったし」
「そ、か。でも、ありがとう」
「や、どういたしまして、です…」
「………」
「………」


やばい、会話が止まった。
どうしよう。何か話題を見つけなきゃ。
前にもこういうことあったな、とデジャヴを感じながら話題を探すけれどなかなか見つからない。焦る私の元に、突然ポケットの中にある携帯が震えた。
私はポケットから携帯をそっと出して画面に目をやる。そこには田中からの着信履歴が数件残っていた。


「(うわ…かけ直したくないな…)」


これほど掛け直そうと思わないのは田中からの用件が想像できるからだ。ヨシタケくんは田中の弟であって、未だに帰らないことを疑問に思っているのだろう。まだ私と一緒にいるのか、と。
私は田中からの着信を見なかったことにして、そっと携帯をポケットの中にしまった。


「姉さん、」
「!」
「から、すか?」
「あ、はは、まぁ、はい…」


ぎこちなくそう言うとヨシタケくんは額を押さえて項垂れる。そして深い息を吐いた。


「ほんとすんません、みょうじさんには迷惑かけてばっかで」
「い、いやいやいや!むしろ迷惑かけてるの私のほうだから!」


田中のことは高校1年からの付き合いだから、迷惑をかけられるのなんて慣れている。それに比べてヨシタケくんとはまだ出会って数ヶ月。ヨシタケくんに迷惑をかけているのは私のほうだ。
私が田中に余計なことを言ったせいで、こんなことになったのは確かだし、今までのことは全部自分のせいにすぎない。だからヨシタケくんが謝るのはお門違いで、謝らなきゃいけないのは私のほうなのだ。


「ヨシタケくん」
「?はい?」
「私こそ、というか、私のほうがヨシタケくんに謝らなきゃだよ」
「えっ、なんでっすか」
「だ、だってヨシタケくんに会いたいって私が田中に言った、から」
「…は!?え、そうだったんすか?!」
「で、でもヨシタケくんに会えてよかったよ!ヨシタケくん面白いし、一緒にいるの楽しいし…!」


そこまで言ってふと我に返る。今ヨシタケくんに言った自分の発言を思い返した後、顔が一気に熱くなった。

今、私すごい恥ずかしいこと言った気がする。やばい、ヨシタケくんの顔見れない。

言ったことに嘘偽りはないけれど、さすがに今の発言は、穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。
黙ったまま下を俯いていると、ヨシタケくんが「お、」と口を開く。ちらりとヨシタケくんを見やると、目線を斜め下に向けていた。


「俺も、みょうじさんといるの、その、楽しいすよ」
「えっ…」
「そ、そりゃまぁ最初は姉さんの友達ってこともあって警戒はしたけど…みょうじさん優しい、し」


ヨシタケくんの「警戒した」という言葉に少しだけショックを受ける。
やっぱり最初警戒されてたんだ。いやでも仕方ないよね。ヨシタケくんは田中があまり好きではないのだから、田中の友達も警戒されても仕方ない、と思うことにしよう。
それよりもヨシタケくんが最初に言ってくれた言葉に思わず口元が緩む。ヨシタケくんは気恥ずかしそうに頬をかいて、そしてカチッと目が合う。


「……へへ」
「……ふふ」


ヨシタケくんが照れ臭そうに笑うものだから、私もヨシタケくんにつられて笑みが溢れた。
妙な空気にペットボトルを両手で握り締める。ふと視線を空に向ければ、オレンジ色だった空はいつの間にか暗い青が混じり始めていた。


「…そろそろ帰りますか」
「ん…そうだね」


ヨシタケくんの言葉に私は頷く。
ヨシタケくんと一緒にいるのが心地よくて、もう帰る時間なんだと思うと寂しく感じた。

もっと一緒に居たかったな。

そんなことを思いながら私は腰を上げる。歩き出すヨシタケくんの背中を見つめながら、小さく息を吐き出した。

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