私の視線の先を追ったのか、ヨシタケくんも文具店に気付いたらしく、小さく「あ」と声を上げた。


「着いたっすね」
「う、ん。そうだね」


あっという間に文具店に着いたせいか、私は少しだけ気落ちしてしまう。もっとヨシタケくんと話したかったな。そう思いながら、重たい足を動かした。

文具店に入り、ノートのある場所へ向かう。ヨシタケくんも着いてきてくれたが、ノートのある場所に着くとヨシタケくんは何故かしゃがみこんでいた。下の棚にもノートはあるけれど、ヨシタケくんはノートを探してる様子ではない。むしろ何かから逃げているような、そんな気がした。


「ど、どうしたの?ヨシタケくん」


見るに見かねて私はヨシタケくんに話しかける。ヨシタケくんは恐る恐る私を見て、そして口元に人差し指を立てて「シーッ」というポーズをとった。一体なんでそんなことになってるのかと首を傾げる。
立ち上がらないヨシタケくんに私もしゃがんで、とりあえず小声で話しかけてみた。


「何かあった?」
「…や、ちょっと知り合いが…」
「え?だれ?」
「あ、あーいえ、別に大した奴じゃないんす!なんつーかめんどくさいっていうか…」
「めんどくさい?」


何がどうめんどくさいのだろう。疑問ばかりが浮かぶなか、ヨシタケくんは私に目線を寄越した。


「ノート、見つかりました?」
「えっ、あ、あぁ、うん、あったにはあったけど…」


私の片手にはいつも使っているノートが握られている。ヨシタケくんはそれを見て、「よし」と小さな声で言った。
「よし」ってなに。一体何が始まるの。


「みょうじさんそのまま会計してきてください。んで何事もなかったかのように店出てくださいっす」
「う、うん?」
「俺もすぐ出るんで」


そんなに見られてはいけない人がいるのだろうか。ヨシタケくんにとって見られて困る人って一体…。
ヨシタケくんの疑問だらけな行動に首を傾げつつも、私はそれに従うしかなかった。
数人並んでいるレジのところに並び、お会計を待つ。ちらりと目線を後ろにやると、棚の所にいるヨシタケくんが半分だけ顔を出してこちらを窺っていた。それがあまりにもシュールで思わず吹き出しそうになる。
笑うのを堪えていると、自分の後ろに男子学生が並んだ。自然とその男子学生を見やる。
その男子学生はヨシタケくんとそう変わらない男の子だった。気のせいかヨシタケくんが額を抱えてる姿が目に入る。そういえばこの子もヨシタケくんと同じ制服のような…。


「次の方どうぞー」
「あ、はい」


店員さんに呼ばれ、私はレジの前に行く。ノートを差し出すと店員さんはバーコードを通して金額を口にした。


「148円ですー」
「あ、これで」


150円を出すと店員さんはそれをレジのなかに入れる。そして私に2円のお釣りを渡すとノートを袋に入れて差し出した。


「ありがとうございましたー」


愛想のよい笑みに頭を少しだけ下げて出口に向かう。ヨシタケくんはどうしてるだろう、と思いながら店の外に出た。
空を見上げて、小さく息を吐く。ヨシタケくんが見られたくない人って誰なのか、結局わからずじまいだった。いや、未だ店の中にヨシタケくんはいるし、見られたくない人って人が出てくるまで私はここにいればいいのか。
…あれ、私どうすればいいの?ヨシタケくんが出てくるまで待ってればいいんだよね?


「おいヨシタケ――」
「わっ?!」


ヨシタケくんの名前が出たらと思ったら突然手を引っ張られた。そのまま走り出すヨシタケくんと一緒に走る。少しだけ顔を後ろに向ければ、先ほど後ろに並んでいた茶髪の男子学生が、ぽかんと口を開けてこちらを見つめていた。
足を動かしながらヨシタケくんの走る後ろ姿を他人事のように眺める。何があったのかわからないけど、後ろ姿もかっこいいな、なんて。
ヨシタケくんと繋がれている手がやけにくすぐったく感じながら、置いて行かれないようにと必死に足を動かした。

しばらく走った私たちはたまたま近くにあった公園に入り、ベンチに座る。お互い息を弾ませながら背もたれにもたれた。
久しぶりにこんなに走った気がする。というかどうしてこうなってしまったのだろう。意味がわからないままヨシタケくんに着いてきたけど、何故か清々しい気分だった。


「はぁ、はぁ…みょうじさん、すんません…」
「はぁ、い、いや、大丈夫…」


口ではそう言ってみるものの、実際はかなりきつい。普段運動なんてしていない私の身体は悲鳴をあげていた。だがしかし、ヨシタケくんにそんな格好悪い所なんて見られたくないのでなんとか平静を装う。
落ち着きを取り戻したところで不意にヨシタケくんが立ち上がった。それを見上げると、ヨシタケくんがちらりと私を見る。


「なんか飲み物買ってきます、何飲みたいっすか?」
「えっ、いやいや大丈夫だから」
「や、結構走らせちゃったしみょうじさん息上がってるし…」
「う…」


あ、普通にばれてた。
恥ずかしくて顔が熱くなる。そんな私にヨシタケくんは首を傾げていた。私は直視してくるヨシタケくんから逃げるように口を開く。


「お、お茶で大丈夫デス…」
「お茶…なんでもいっすか?」
「はい…」


了解っす。
ヨシタケくんはニッと笑って駆け出した。それを見つめながら、さっきまであんなに走ってたのにまだ走れる体力残っているんだ、と一人ごちる。さすが現役男子高校生。いや、私もまだ現役女子高生だけど。
ふと空を見上げる。空はいつの間にかオレンジ色に染まっていた。


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