みょうじさんと喫茶店に入ったあと、みょうじさんは苺のタルト、俺はコーヒーを頼んだ。店員さんがコーヒーを先に持ってきて、そのあと苺のタルトを持ってくる。
苺のタルトを頼むなんてやっぱりみょうじさんは女の子なんだな。
そんなことを呑気に思いながらみょうじさんを見ていると、苺のタルトを見る目がやけにキラキラ輝いているものだから、思わず噴き出してしまった。そのせいでコーヒーが変なところに入り息が苦しくなる。出てきそうなコーヒーを抑えるように手で口元を押さえた。


「よ、ヨシタケくん、大丈夫?」
「ゴホッ、は、はい…だ、大丈ゴホ、す…」


みょうじさんになんてカッコ悪いところを見せてしまったのだろう。苦しいとかよりも羞恥心のほうが勝る。早く止めよう、そう思っていてもなかなか止まらなかった。
なんとか咳が止まり、はぁーと大きく息を吐く。みょうじさんに変なところ見られた、と落胆していたらみょうじさんが動いた。それに反応して顔を上げるとバチっと目が合う。
俺は反射的に謝罪した。


「す、すんません、いきなり噎せて…」
「え、いやいや全然気にしてないよ。それよりももう大丈夫?」
「はい…あ、俺のことはいいんで、食べてくださいっす」


どうぞどうぞ、と言わんばかりに苺のタルトに目を移す。みょうじさんは恐る恐るフォークを手に取り、タルトの端っこを切ってそれを口に運んだ。


「どうっすか?」
「美味しい…!」


そう言って口元を緩めるみょうじさんが可愛くて、思わずこっちまで顔が緩んでくる。みょうじさんはそんな俺に気付いてか慌てて口元を隠した。
なんで口元を隠す必要があるんだろう。


「どうかしたんすか?」
「あ、あのそんなにじっと見つめられるの、恥ずかしいです…」
「え、あー、すんません…」


そう言って俺は視線をみょうじさんから外す。なるほどそういうことか。さっき俺がみょうじさんに言ったように、みょうじさんも見られるのが恥ずかしいのか。そりゃあ食べるところ見られるの嫌だよな、うん。これから気をつけよう。これからがあるのかわからないけれど。
みょうじさんはよほど美味しいのか、あっという間に苺のタルトをたいらげた。


「ご馳走様でした」
「あっという間だったっすね」
「だってすっごく美味しかったんだもん」


そう言って満足気に笑うみょうじさんに、俺も思わず頬が緩む。そこまで喜んでもらえたのなら喫茶店に入って正解だった、と1人頷いていると、みょうじさんが「あれ」と声をあげた。


「え?」
「ね、ねぇ、田中と会長さんは?!」
「!」


みょうじさんは顔を青ざめて俺を見る。俺は慌てて姉さんたちが座っていたであろう席に振り返ったら、そこはすでにもぬけの殻となっていた。サァ、と血の気が引く。


「い、いつの間に…!?」
「はぁ…」


一体いつからいなくなっていたのか。というか姉さんたちが居なくなった今、この状況どうすればいいのだろう。
頭の中が真っ白になる。頭を抱えていたら、タイミング良く携帯が震えた。
携帯を見ると、一件のメールが入っている。それを開くと、相手はヒデノリだった。


「(会長はお前たちのために犠牲になったのだ。会長のためにも、みょうじさんとのデート楽しんでこいよ。おめおめと帰ってきたら全力で笑ってやるからな、みんなで!…はぁ!?つーか会長は大丈夫なのかよ!何考えてんだ!)あいつら…!」
「あいつら?」
「!、あ、すんません、何でもないっす!」


ははは、と笑って誤魔化してみるけれど、明らかに俺の顔は引きつっているような気がした。
みょうじさんが苺のタルトを食べ終わり、俺もとうとうコーヒーを飲み終えてしまった。話題を探そうにもなかなか見つからない。姉さんたちがいなくなって肩の荷が下りたのは確かだが、違う意味で緊張してきた。デートなんてしたことがない俺にはレベルが高すぎる。
話題が見つからない今、もうこういうときは相手に聞いてみるしかない。
俺は勇気を出して口を開いた。


「あの、みょうじさん」
「は、はい!」
「…この後どうしますか?」
「えっ」


俺の問い掛けにみょうじさんは眉尻を下げて困ったような表情をする。それを見て、まずい質問をした、と後悔した。
もしみょうじさんが「じゃあ、もう帰ろっか」なんて言ったら、せっかくのデートもこれでおしまいになってしまう。そしたらヒデノリたちの笑われ者になり、みょうじさんともこれで終わってしまうかもしれない。
それは嫌だ。もう少し、みょうじさんといたい。
そう思っても勇気のない俺は、みょうじさんからの返事をびくびくと待つしかなかった。


「よ…」
「?」
「ヨシタケくんは?」
「えっ」


まさかの質問返しに目が点になる。
そりゃあもちろん、まだみょうじさんと一緒にいたいです。なんて、そんなクサイ台詞を言えるほど余裕はなく、俺は頬をかきながら口を開いた。


「じゃあ、せっかくなんでその辺ブラブラします?」
「!う、うん!ブラブラする!」


俺の言葉にすぐ様頷くみょうじさんに、俺は心の中でガッツポーズをした。


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