「お待たせいたしました。苺のタルトでございます」
「あ、ありがとうございます」


少しして苺のタルトが来て目の前に差し出される。見た目もすごく美味しそうで、思わず頬が緩んだ。不意にブッと噴き出したような音が耳に入る。音の方向に目線を向ければ、ヨシタケくんが口元を押さえてゴホゴホと噎せていた。


「よ、ヨシタケくん、大丈夫?」
「ゴホッ、は、はい…だ、大丈ゴホ、す…」


しばらく咳き込んだ後、落ち着いてきたのか、ヨシタケくんははぁー、と深く息を吐く。大丈夫かと顔を覗き込むと、バチっと目が合った。


「す、すんません、いきなり噎せて…」
「え、いやいや全然気にしてないよ。それよりももう大丈夫?」
「はい…あ、俺のことはいいんで、食べてくださいっす」


ヨシタケくんの目線が苺のタルトに向けられる。あ、そういえばあったんだった、と苺のタルトに目を移した。恐る恐るフォークを手に取り、端っこをフォークで切る。そして、それを口の中に運んだ。


「!」
「どうっすか?」
「美味しい…!」


想像以上の美味しさに自然と口元が緩んでしまう。ほっぺが落ちてしまうくらい美味しくて、ゆっくり味わっているとふと視線を感じた。ヨシタケくんを見遣ると、何故か微笑んでいるヨシタケくんがいて、慌てて口元を手で隠す。
そんな私に、ヨシタケくんは不思議そうに首を傾げた。


「どうかしたんすか?」
「あ、あのそんなにじっと見つめられるの、恥ずかしいです…」
「え、あー、すんません…」


ヨシタケくんは慌てて顔を逸らす。言った後に気付いたが、そういえば私もさっきまでヨシタケくんを見つめていたんだった。こんなに居心地悪いものをヨシタケくんに与えていたなんて、さっきはごめんなさいヨシタケくん。
心の中で懺悔しながら、二口、三口と苺のタルトを食べていく。そして、苺のタルトを堪能した私はフォークを置いて、手を合わせた。


「ご馳走様でした」
「あっという間だったっすね」
「だってすっごく美味しかったんだもん」


まだまだ物足りないけれど、ここで追加の注文はヨシタケくんに引かれるかもしれないからやめておく。また今度田中と食べてこよう、そう思いながら田中たちのほうへ顔を向けると、そこはいつの間にか空席になっていた。


「……あれ」
「え?」
「ね、ねぇ、田中と会長さんは?!」
「!」


ヨシタケくんも慌てて振り返る。そして、空席になっていることに気付くとサァッと顔を青ざめた。


「い、いつの間に…!?」
「はぁ…」


溜め息を吐いた直後、携帯が震える。恐る恐る携帯を見ると、メールが一件入ってきた。相手は言わずもがな田中である。


「(私ちょっと先帰ってるわー。弟のことよろしく……ってはぁ!?会長さんはどうしたの!?)」


会長さんのことなど一切触れていない田中に心の中で突っ込む。慌てて返信をしたけれど、それがいつ返ってくるのかはわからない。
頭を抱えたい衝動に駆られながらヨシタケくんを見遣ると、ヨシタケくんは頭を抱えていた。


「よ、ヨシタケくん?」
「…あいつら…!」
「あいつら?」
「!、あ、すんません、何でもないっす!」


ははは、と笑みを浮かべるけれど、その笑顔は見事引きつっていた。
苺のタルトも食べ終わり、ヨシタケくんもコーヒーを飲み終わって、とうとう手持ち無沙汰となってしまった。何か話題を探すけれど、こういう時に限って全く浮かんでこない。田中が居なくなってホッと安堵したのは確かだけれど、本当の意味で二人きりになったからか今更緊張してきていた。
どうしよう、こんな時、どうすればいいんだ。デートなんてしたこと無い私には、この壁を乗り越えることなどできなかった。


「あの、みょうじさん」
「は、はい!」
「…この後どうしますか?」
「えっ」


ヨシタケくんの問い掛けに頭の中が真っ白になる。
この後どうしますか?って、どうすればいいのだろう。私はまだヨシタケくんと一緒に居たい。でも、もしかしたらヨシタケくんはもう帰りたいかもしれない。もしそうだったら、引き止めてしまうのは可哀想だ。かと言って、帰ろっかって言うのはなんか嫌だ。じゃあ、どう答えればいいんだろう。
散々悩んだ挙句、私が出した答えはこれだった。


「よ…」
「?」
「ヨシタケくんは?」
「えっ」


まさかの質問返しである。
目を点にさせるヨシタケくんに、私の心の中は修羅場だった。問い掛けに問い掛けで返すのは御法度だろう。一番相手が困る返答だろうに、なんということを口走ってしまったのだと後悔したのは言うまでもない。
私の馬鹿野郎!と心の中で叫んでいると、ヨシタケくんが口を開いた。


「じゃあ、せっかくなんでその辺ブラブラします?」
「!う、うん!ブラブラする!」


ヨシタケくんの言葉に私はすぐ様頷く。帰りましょう、と言われなかったことに驚いたけれど、まだ一緒に居てくれるという嬉しさで胸がいっぱいになった。


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