私達は少し歩いたところにある喫茶店へと入る。店員さんに人数を聞かれ、田中が四人だと答えると突然会長さんが田中の前に出た。不思議そうに見上げる田中に、会長さんは人懐っこい笑みを浮かべる。


「こんなとこまでダブルデートっていうのもなんだし、別々といきましょうぜ」
「は?別々って…」


ヨシタケくんがちらりと私を見る。それはつまり、ヨシタケくんと私、会長さんと田中で別々に座るってこと?!


「な、なんで」
「いい考えね、そうしよっか」
「たっ…!?」


田中あんたねぇ!
そう言いたいのを堪えて田中をじろりと睨み付けるが、田中はにまにまと気味の悪い笑みを浮かべながら、私達を見ていた。キッと会長さんを見るけれど、会長さんは既に店員さんに案内させられていた。


「こちらへどうぞ」
「あ、は、はい…」
「ごゆっくりー」


何とも楽しそうな声で私達に手を振る田中にイラっとする。会長さんまで親指を立ててウィンクをしてきた。殺意が芽生えたのは言うまでもない。
仕方なく店員さんに案内され、私達は田中たちとは少し離れた場所に座る。どうしよう、と顔を俯かせているところにお水が運ばれてきた。とりあえずそれを飲んで落ち着こうとお水に手を伸ばす。


「あ…」
「あっ」


お水を取ろうとした私の指先とヨシタケくんの指先が触れる。驚いて手を引っ込めると、ヨシタケくんもつられてか手を引っ込めた。気まずい沈黙が流れる。
どうしてお水を真ん中に置いたんだ、目の前に置いてくれよ店員さん!


「ど、どぞ…」
「あ、ありがとうございます…」


ヨシタケくんがおそるおそる私にグラスを渡してくれる。それを受け取ったあと、私はグラスに口をつけた。冷たい水が口の中全体に広がって、喉が潤されていく。
ホッと小さく息を吐いたあと、ふとヨシタケくんを見やると、ヨシタケくんとバチっと目が合った。思わず作り笑いをしてしまう。


「へへ…」
「は、はは…」


ヨシタケくんまで作り笑いをするものだから、何だか笑えてきてしまって、作り笑いしてたのが馬鹿らしくなってきた。含み笑いしていると、ヨシタケくんが照れ臭そうに頭をかく。


「なんか…」
「ん?」
「改めると照れるっすね」
「ふふ、うん、照れるね」


妙な会話がまたおかしくて、しばらく笑いが止まらなかった。
少し落ち着いたあと、小腹が空いてきた私はメニューを手に取る。二枚あるうちの一枚をヨシタケくんに渡すと、ヨシタケくんはそれを受け取ってメニューに目を移した。


「ヨシタケくんは何か食べる?」
「んー、俺はあんまり腹減ってないんすよね…みょうじさんはなんか食べます?」
「小腹空いてきちゃったし、デザートでも頼もうかなと」
「あーここのデザート結構美味しいっすよ」
「へぇ、そうなんだ?」
「この前ヒデノリたちと来たとき苺のタルト食べたんすけど、美味かった記憶が」
「じゃあそれにしようかな。ヨシタケくんは?何も食べなくて平気?」
「俺はドリンクで十分す」


あれ、そういえば案外普通に話せてる。そう思っていたらヨシタケくんが店員さんを呼んだ。店員さんが来て注文をとる。


「ご注文は?」
「えーと、苺のタルトください」
「俺はコーヒーで」
「はい、かしこまりました」


ヨシタケくんコーヒー飲むんだ。なんか私より大人っぽい。
そんなことを思いながらふと田中と会長さんが気になって視線を移す。田中は私から見て背中を向けているから表情はわからないが、会長さんと談笑しているように見えた。どんな会話をしてるのか気になる。


「なに話してんすかね」
「え?」
「姉さんと会長ですよ。ウマが合うとは思えないんすけど」
「あー確かに。でも会長さん、女の子の扱い慣れてるよね?」
「まぁ一応あんな形ですし、モテるんじゃないすか」


ヨシタケくんは頬杖をついて、呆れた顔で田中たちを見る。自分の姉が自分の知り合いと話してる姿を見ることなんて滅多にないだろう。逆も然りだ。田中は私とヨシタケくんのことをどんな目で見てるんだろうか。


「失礼します、ご注文のコーヒーです」
「あ、どうも」


ヨシタケくんのコーヒーが来て店員さんはそれをテーブルの上に置く。ヨシタケくんは砂糖を入れてスプーンでかき混ぜる。その動作だけなのに胸が高鳴るなんて、かなりの重症だ。


「よ、ヨシタケくんはコーヒー好きなの?」
「いやー好きというか、まぁヒデノリと徹夜ゲームするときいつも缶コーヒー飲んでるし…それに俺炭酸飲めないんで」
「え、炭酸ダメなんだ?」
「まぁ…変すかね」
「ううん、別に変じゃないけどなんか意外だなぁって」


そっか、ヨシタケくんは炭酸が飲めないんだ。ヨシタケくんの個人情報をゲットできて、少しだけ嬉しくなる。でも炭酸がダメって、男子高校生にしては珍しい気がする。
カップにふーふーと息を吹きかけるヨシタケくんをじっと見つめていると、ヨシタケくんは飲まずにカップを戻した。どうしたんだろう、と首を傾げる私に、ヨシタケくんが気まずそうな顔で口を開く。


「あの、見つめられると飲みにくいんすけど…」
「え!?あ、ご、ごめんなさい!」


そりゃあそうだ。見つめられたら飲みにくいことくらいわかるはずなのに、私ったらつい見惚れてしまった。慌てて謝って顔を窓の方向に向ける。

私の馬鹿。はぁ、ヨシタケくんに変に思われただろうな。

そんなことを思いながら心の中で頭を抱えた。


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