もぞもぞと動き出した彼らの中から現れたのはヨシタケくんだった。ヨシタケくんは徐にこちらに近付いてくると、わざとらしく驚いた素振りを見せて口を開いた。


「ね、姉さん?!なんでここに!?」


ヨシタケくんの棒読み発言に思わず口元が緩む。棒読みということは、こうなるように計画を立てていたのだろうと容易に推測できた。
田中はヨシタケくんを見るなり眉を顰める。実の弟にそんな反応しなくてもいいじゃないか。


「あ、ヨシタケ。お前の姉さんが俺に会いに来たってさ」
「はあ、なんで会長に会いに来たんだよ」
「なまえの知り合いらしいから拝見しに来ただけ。ね、なまえ」
「あ、はは。そうですね」


思わず敬語になってしまう。ヨシタケくんを直視できなくて、私は視線を斜め下に逸らす。田中はふーん、と言いながら腕を組んだ。そんな中、会長さんがパン、と両手を叩く。みんなが会長さんに注目すると、会長さんはにこりと笑って口を開いた。


「ヨシタケのお姉さん、俺とお茶でもどうです?」
「は?」
「ちょ、会長!?」
「みょうじさんもどう?」
「え?!」
「俺だけじゃアレだし、ヨシタケ、お前着いてきなよ、な?」


会長さんの思いがけない提案に呆然となる。田中も驚いたのか口を開いたまま固まっていた。ただ見に来ただけなのに、まさかナンパされるとは思わなかったのだろう。
ふとヨシタケくんを見やると、丁度目が合った。何故か恥ずかしくなり慌てて目を逸らす。


「た、田中はどうするの?」
「え?んー、そうね。面白そうだし、付き合ってあげてもいいかな」
「え……」
「さすがヨシタケの姉さん。そうこなくっちゃ。ヨシタケは実の姉とお茶したくないだろうし、みょうじさんと行動してくれよ」
「そういえばあんたたち一応知り合いだし、丁度良いんじゃない?」
「な、何が丁度いいのかわかんないよ!」
「あ、二人知り合いだったんだ?なら話は早いね」


この二人、実は組んでるんじゃないかというくらい息がぴったりで、狼狽えてしまう。二人は行く気満々で、どうしようか思考を巡らせているとヨシタケくんが動いた。


「別に、俺はみょうじさんがいいならいいっすけど」
「えぇ!?」
「なまえは?」
「うっ…」


田中、会長さん、ヨシタケくんの視線が私に注がれる。こんなの、断れるわけないじゃないか。もういっそ田中と会長さん二人でどっか行けばいいのに。そう思っていても田中の視線はそれを許さなかった。
私は肩を落として小さく頷く。その際、田中と会長さんがニヤリと笑ったのを私は見逃さなかった。やっぱりこの二人組んでるんじゃないか?


「決まりだね。じゃー、とりあえず喫茶店かな」
「丁度小腹が空いてたんだよねー」
「あー、この時間って小腹空くよね」
「会長さん、案外わかってるじゃん」


そう言って歩き出す二人の背中を見つめる。微妙な組み合わせに、本当にこれで良かったのかと思っていたら、ヨシタケくんが小声で声をかけてきた。


「みょうじさん、すんません…」
「へ、いやいやいや!こちらこそいきなり押し掛けてごめんなさい」


手をぶんぶん横に振って気にしないでとアピールする。前を歩く二人は私たちに振り返ることなく順調に歩を進めていた。距離が少しあるからか二人の話し声は聞こえない。なんの話をしているのかすごく気になる。


「何の話してるんすかね」
「あ、ヨシタケくんも気になる?」
「そりゃあそうすよ。あの組み合わせで気にならない奴はいないですって」


そう言ってちらりと後ろを見る。私もそれにつられて後ろを見ると、数人の男子高生がこちらを覗き込んでいるのが見えた。分かりやすすぎる行動に苦笑いする。


「それにしても、本当にデートになるなんて思わなかったよ」
「え、これデートになるんですか?」
「え、そうじゃないの?」
「…………」
「…………」


お互い顔を見合わせたあと、どちらからともなく目を逸らす。これってデートに入るよね?あれ、違った?そもそもデートってなんだっけ?


「す、すみません…」
「え?」
「こう、女の子とデートってしたことなくて…」
「そ、そんな、私もデートとかしたことないし…」
「え、マジすか」
「マジっす」


そう返すとヨシタケくんは目を丸くさせて、そして口元を手で覆った。どうしたのかと思いながらヨシタケくんを覗き込む。心なしか頬が赤くなってるような気がする。


「ヨシタケくん?」
「あー、いや、あの、初めてのデートが俺ですみません」
「えっ、そんな全然謝ることないから!むしろ初めてがヨシタケくんで良かったというか…」
「俺で良かったんすか?」
「う、うん」


あれ、なんか変なこと言ってないか?
そう思って自分の発言を振り返ってみる。初めてがヨシタケくんで良かったと思ったのは本当だ。だって、好きな人だから…よく考えてみれば結構凄いこと言ってるような気がしてきた。
今更恥ずかしくなってきた私は顔を俯かせる。顔が熱くなってくるのを感じていたら、ヨシタケくんの小さな声が耳に届いた。


「お、俺も、初めてのデートがみょうじさんで良かった、す」
「!」


思わずヨシタケくんを見上げると、ヨシタケくんは視線を明後日の方向を向いていて、照れ臭そうに頬をかいていた。


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