「お邪魔します…」
「私の部屋、わかる…わけないか。初めてだもんね。ちょっとそこで待ってて。ジュースとか探してくる」
「はーい…あ、これうちのお母さんから」
「お、ありがと。うわー安そうなクッキーだね」
「それは口にしないで胸の内に秘めといてよ」


お母さんから渡されたクッキーの箱を田中に差し出す。田中はそれを受け取り、私にここで待っててと言うとリビングに入っていった。そして私は廊下で待たされることになった。ていうか私はリビング入っちゃ駄目なのか、いやここで待っててと言われたからには待ってるけどどこか腑に落ちない。


──ガチャ

「「あ」」

──バタン

「………」


玄関の開く音がして顔を向ければ、まだ居たのかよと言いたげなヨシタケくんと目が合った。そして目が合ったと思ったらすぐに玄関の扉閉められた。私が廊下で待たされているなんて思わなかったのだろう。玄関の音に田中がリビングの扉を開けて出てきた。田中の手にはペットボトルのコーラとお母さんからの差し入れのクッキーの箱を持っていた。


「?今玄関開かなかった?」
「あぁ、ヨシタケくんが」
「ぶはっ!あんたあいつのことくん付けしてんの!?あいつのことなんかくん付けなんてしなくていいって。バカなんだから」
「は、はぁ…」


そう言うと田中は二階へと歩き出した。私も着いていこうとしたが、少しだけ振り返ってみる。そこには玄関の扉をすこーしだけ開けた隙間から私たちを見ているヨシタケくんがいた。私が振り返ったことによってそれに気付いたヨシタケくんは、少し気まずそうに玄関の扉を開けて入ってきた。心なしか頬が赤い。


「(かわいい…!)」
「なまえ何してんのー?早く来いっつーの」
「あ、はいはーい」


ヨシタケくんの意外な一面を見て萌えていた私に、田中が早く来いと催促した。階段を上がり、田中の名前がかけられたプレートを見てその部屋に入っていく。田中の部屋は案外片付けられていて、整理整頓きっちりしてんね、と言ったらまぁね、とどや顔で振り返った。


「でさぁ、紹介すんのめんどくさかったから夕方6時くらいにあいつも帰ってくるだろうとふんで、6時に来てと言ったわけなんだけど」
「え?いきなりなんの話?」


田中はたまに話がぶっ飛ぶことがある。そしてそのまま何事もなかったかのように続ける。田中がバカだということに私は前から気付いていたので臨機応変に対応できる。田中にはそんなこと口が裂けても言えないけれど。
田中の部屋の扉を閉めてバッグを床に置く。田中は田中でベッドに座ってペットボトルを手に取りキャップを取る。


「だからぁ、あいつの話。あいつさだいたい夕方6時くらいに帰ってくるの、私あいつと話したくないしめんどくさかったからなまえと鉢合わせさせたわけ」
「あぁなるほどね」
「さすが私」


自画自賛している田中に苦笑を浮かべる。だから夕方6時に来いと言ったのか、そう思ったら田中にしちゃあよく考えたなって思った。ただ話したくないしめんどくさかったから、という理由で鉢合わせってなんだかこう、ロマンがないなぁとも思う。しかも相手(ヨシタケくん)超ビビってたからね。







姉さんとその友人(みょうじさん)が二階に上がって部屋に入ったのを見計らって忍び足で自分の部屋に入る。それにしてもなんであの人(なまえ)二階に上がる前に振り返るんだ。ビックリしたし、泥棒のように隙間から中を覗いてる自分が恥ずかしかった。今日は部屋に閉じ籠ろう。
ヒデノリにメールしておかなければ。

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