古典の授業の内容なんて頭の中に入っていくわけがない。今の私の頭の中は、ヨシタケくんと会長さんのことだけでいっぱいだった。
田中がああなってしまった以上、真田北高校に行くのは避けきれない。そして、会長さんと会うのも多分避けきれないだろう。真田北高校に会長さんがいなければ会うのは避けられるが、会長さんが学校を休んでいる可能性は低い。しかも仮に休んでいたとしても田中ならまた次の日にでも突撃しに行くだろう。


「(…とりあえず、ヨシタケくんにメールしなきゃ)」


こんなことになってしまったのは私のせいだ。ヨシタケくんや会長さんに迷惑がかからないようにやれることをやるしかない。
私は携帯を取りだし先生から見えないよう机の下でメール画面を開く。宛先をヨシタケくんにすると本文の入力に取りかかった。


"今朝はありがとう。一応遅刻は免れたよ。"


不意に電車での出来事を思い出した私は胸がきゅっと締め付けられる。顔が熱くなるのと同時ににやけてきそうだったから下唇を少しだけ噛んだ。思い出し笑いするなんて気持ち悪いな、と自分に嫌気がさす。
ヨシタケくんにどう言おうか悩みながら、とりあえず文字を入力していくことにした。


"それでね、あの、ちょっとヤバいことがあって…電車でのこと、どうやら私のクラスメイトが見てたみたいで、田中が真田北高校に行くって言い出したの…。私が一緒にいたの金髪の男の子だってクラスメイトが見てて。でも、ヨシタケくんのことは言ってないから安心して!安心してって言っても安心できるわけないと思うんだけど…。"


我ながら説明が下手だ。自分で読み返して悲しくなってくる。この説明でヨシタケくんが理解できるかどうかわからないけれど、まだこれで終わるわけにはいかない。
私のせいで田中が真田北高校の会長さんに会いたがっている。それを伝えたら、ヨシタケくんはどう思うのだろう。いや、それ以前にまずなんで会長さんの話になったのかが問題だ。


"それで、金髪の男の子とは知り合いなんでしょって詰め寄られて、ヨシタケくんだってバレたら大変だと思ったから、勝手に生徒会長さんのことを話しちゃったんだよね…。で、田中がその生徒会長さんに会いたいって言い出したんだけど…今日は生徒会長さん、学校いたりする?"


長い。こんな長文初めて打った気がする。でも簡単に説明ができるほど私に文章力なんてないし、これで精一杯だ。
もう一度、誤字がないか全文確認したあと送信ボタンを押す。どうか授業が終わる前に返信がありますように。そう祈りながら、私は携帯をポケットにしまった。



*     *     *



ふとズボンのポケットに入ってる携帯が震えていることに気付いて、不思議に思いながら携帯を取り出す。受信名を見てみるとみょうじさんからで、俺は思わず携帯を落としそうになった。しかも今ちょうど休み時間だったからか、その慌てぶりをヒデノリとタダクニにばっちり目撃されてしまった。


「よ、ヨシタケ?いきなりどうした?」
「ふっ…その慌てぶりを見るに、みょうじさんからメールだな?見せろ!!」
「うわっ!ちょ、やめろヒデノリ!」
「このやろ、もったいぶるんじゃねぇ!」
「はぁ!?もったいぶってなんか…まっ、待てって!先に俺が、見て判断するから!」


ヒデノリに首を絞められながらも携帯を死守する。ヒデノリは俺の言葉に納得したのか、腕を離して椅子にどかっと座った。そしてニヤリと笑みを浮かべて腕を組む。


「さあ、早くしたまえ」
「…はいはい」


もはや突っ込む気さえなくした俺は受信メール一覧のボタンを押して、みょうじさんからのメールを開いた。
一行目は今朝のお礼の文が書かれてあって、自然と頬が緩む。しかし、そのお礼の文から下を見ると今まで見たことがないほどの長文が目に映った。
何事かと思いながら文章を目で追っていく。その内容を全部読み終わった俺は、自分の顔が引きつり冷や汗が背中を伝うのを感じた。俺の異様な様子を察したのかヒデノリとタダクニが携帯画面が見えるように俺の後ろに回り込む。


「やけに長い文だな…」
「くっ…ラブラブで羨ましい…な、なんて思ってないからな!断じて思ってないからな!!」
「……やばい」
「「は?」」


タダクニとヒデノリの声が重なる。そして二人は携帯画面を食い入るように見つめ、やがて顔を青くさせた。


「お、い……ヨシタケ、まさか…」
「生徒会長が危ない…いや、もしかしたら俺たちも…!」


みょうじさんの気遣いは凄く嬉しいし、姉さんにあのことがバレなくてよかったとは思う。しかし、これはこれで危険だ。金髪の知り合いが俺以外にいないとはいえ、ここで生徒会長を出すとは思いもしなかった。


「おい、これモトハルたちにも言わねぇと!」
「あ、あぁそうだよな、今モトハルたちは?」
「ここにいないっつーことは生徒会室じゃないか?」
「嵐が目の前に迫ってきてんだ、急ごうぜ!」


ヒデノリはそう言うと教室を飛び出す。俺とタダクニはお互い頷き合うと、ヒデノリの後を追い掛けた。


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