無事に学校に着いた私は何故か田中に出迎えられた。
下駄箱にいる田中を見たときは、わざわざお出迎えしてくれるなんて田中もいい奴だな、と思っていた。しかし、いざ田中に近付いていくと、ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべているのが見えて、あ、これはヤバイと咄嗟に思った私は、慌てて踵を返すも逃げるより先に腕を掴まれてしまった。


「おはよう、なまえ」
「おお、おはよ、田中…」
「私の言いたいこと、わかるよね?」
「田中の言いたいこと…?……ごめん、さっぱりわかんない…」
「まぁいいわ。とにかく教室に行こっか」
「うぃ…」


そのまま田中に引き摺られるような形で教室に向かう。引き摺られている間、私の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。田中の言いたいことなんて全くわからない。もしかして遅刻したこと怒ってるのかと田中に聞いてみたけれど、そんなことではない、と一蹴されてしまった。遅刻したことではないのなら、何をしてしまったのだろう。全く心当たりがない。
結局そのまま教室まで引き摺られ、教室に入ると、それを待ちわびていたかのように女子たちが私たちを取り囲んだ。


「なまえ!あんた、いつの間に彼氏なんかできたのよ!?」
「は?え?か、彼氏?誰が?」
「今さらしらばっくれないでよ。目撃者がいるんだから」
「目撃者…?」
「……私、見たのよ。あんたが男子と一緒にいるところを」
「……はっ!?」


ある一人の女子の発言に、私は全身の血の気が引いていく。まさか、いやそんな。回りをぐるりと見回すと皆、ニヤニヤ笑っていた。
男子と一緒にいたところ、といえば電車の時以外ないだろう。あんなところを見られるなんて最悪だ。頭を抱えたくなるけれど今の私にそんな余裕などない。というか、たかが男子と一緒にいただけで何故取り囲まれなければならないのだろう。


「いや、あのね、あれは彼氏とかじゃなくて」
「は?じゃー彼氏じゃなかったら何よ?」
「え、し、知り合い…?」
「へぇー?なまえに金髪の知り合いなんて居たんだ、へぇー?」
「金髪……?」
「えっ、いや、まぁ、金髪くらいどこにでもいるでしょ、やだなぁ、ははははは…」


田中が金髪の言葉に眉を寄せる。慌てて笑いながら誤魔化そうとするけれど、周りの女の子は未だじとりとした目線を私に向けていた。
その金髪男子が田中の弟だということがバレたらヤバイ。何がヤバイって私よりヨシタケくんだ。ミノの弟、もといモトハルくんのように被害を受けてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。


「ま、まぁただの知り合いなだけだから!」
「本当にー?」
「本当、本当!ただの知り合い!」


なんとかここから逃れなければ。そう思いながら知り合いだからと言い続ける。次第に、女子たちが面白くなさそうな表情になっていくのを感じ取った私は内心ホッと安堵した。しかし、そんな私の肩に手が乗る。


「ねぇなまえ、その知り合いって、どんな人なの?」
「えっ!?」
「私、知りたいなぁ」


田中の爆弾発言に、また周りの女子の顔がぱぁっと明るくなる。
もしかして、田中に感づかれた?ちらりと田中を見る。田中はにこにこと笑っていて、彼女が何を考えているのかわからなかった。せっかく知り合いってだけで終わらそうとしたけれど、田中に足を掬われてしまい振り出しに戻る。


「どんな、人って言われましても…」
「知り合いなんでしょ?名前とか知らないの?」
「な、名前?!」


段々田中に詰め寄られていく。どうしよう、このままいけば私はヨシタケくんの名前を言わざるを得ない状況になってしまう。田中のことだ、納得するまで私に付きまとうだろう。そして田中のことだから、このことを瞬く間にミノたちと共有しあい、ついには共謀して吐かせにくるに違いない。
私はヨシタケくん以外に金髪の人を探すために頭をフル回転させる。金髪、金髪…知り合いに金髪……あっ。


「……か、」
「か?」
「会長、さん」
「はぁ?会長さん?」
「変な名前ね」
「あ、いや、多分それ名前じゃなくて、その……」
「何よ、もうはっきり言いなさい」
「えーと、真田北高校の、生徒会長さん……」
「え?あの男子校の?」
「へぇ、生徒会長ねぇ……」


言ってしまった。ごめんなさい、会長さん。でもヨシタケくんを守るには会長さんしかいないんです。
モトハルくんたちの中にも一人、色黒の金髪の人がいたけど、唐沢って呼ばれてたほうと副会長と呼ばれてたほうかどっちかわからないから、顔もわかってて金髪といえば会長さんしかいないのだ。名前は残念ながらわからないけど、皆が会長って言ってたしそれは仕方ないだろう。


「ねぇねぇなまえ、その生徒会長って人、今度どんな人か教えてよ」
「えぇ?!お、教えてってどう教えれば…」
「知り合いなんでしょ?連絡先は?」
「連絡先わかんないし」
「えー?知り合いなのに?」
「知り合いだからって必ずしも連絡先知ってるとは限らないでしょ」
「ふーん?じゃあ真田北高校に伺っちゃおうかな」
「はぁ?!」
「ま、たまには弟の顔でもと思って」
「(う、嘘でしょ…!?)」


田中はそう言って自分の席に戻っていく。それと同時にチャイムが鳴って、女子たちも散り散りに席に戻っていった。
まさか今さらヨシタケくんのことだと言えずに、私はおずおずと自分の席に行くのだった。


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