俺は今、クラスメイトに囲まれている。何が嬉しくて男に囲まれなければいけないのか、全くもって不愉快である。いや、そんなこと考えてる余裕なんてないんだけど。


「ヨシタケくーん。ずっと黙ってるけどもう逃げられないのわかってるよねー?」
「…どこぞの刑事みたいだな」


どこから持ってきたのかわからない電気スタンドがヒデノリの眼鏡を光らせる。刑事ドラマかよと心の中で突っ込んでいたら、タダクニも俺と同じ突っ込みを入れていた。
ヒデノリとタダクニを他所に、俺を取り囲むクラスメイトのうんざりしたような声が耳に入る。


「また始まったなヒデノリの寸劇」
「タダクニ先輩もなんか言ってやってくださいよー」
「なんで俺が先輩設定なんだよ!」
「おい、ヒデノリに寸劇されてるといつまで経っても終わんねぇぞー」
「ヒデノリーさっさと本題に入れよー」


早く本題に入りたいのかヒデノリを急かすクラスメイトたち。いつもなら乗るくせにこんなときは乗らないのかよ、と頭を抱えて溜め息を吐く。そこへ、何故か教室がざわついた。


「ヒデノリ!奴が来たぞ!」
「ついに…来たか…!」
「?…遅くなって悪い」
「(なんだかんだ寸劇に付き合ってやんのかよ!!)」


クラスメイトの乗りがいいのか悪いのかわからなくなったところで、モトハルと唐沢がやってきた。寸劇していることに気が付かないモトハルは、皆の反応に戸惑いながらもそれっぽい台詞を呟く。唐沢は取り囲まれている俺に気付いたのか、帽子を深く被り直し、溜め息を吐いたような気がした。


「んで、何してんのお前ら」
「ヨシタケが裏切りやがったんだ…!」
「はあ?何を裏切ったんだよ」
「ミツオ君!」
「え?!な、なに?」
「証言を!」
「証言!?」


空気を読めないミツオ君はこんなときでも空気を読めなかった。むしろどうしてこうなったのかわかっているのかも怪しい。
狼狽えるミツオ君に、いきなりヒデノリがバァン!と机を叩いた。


「ヨシタケェェ!」
「なんなんだよもう…」
「今朝の女の人とはどんな人でどんな関係なんだコラァー!」


ちゃぶ台返しでもしそうなくらいのヒデノリの気迫に、唐沢以外のクラスメイトは息を呑む様子で俺たちを見ている。女の人と一緒に居ただけでこうなるなんて、タダクニのときもそうだったけど少し、いやかなり大袈裟だ。俺が言えた立場ではないが、童貞だからだろうか。
というか何故ヒデノリに問い詰められなくてはならないのか。ヒデノリこそ色んな女の人といるのに、と理不尽に思いながら俺は諦めて肩を落とした。


「一緒にいたのみょうじさんだよ…」
「……は?」
「みょうじさん?マジで?」
「みょうじさんて誰だ?」
「おいタダクニ、知ってんのか?」
「あぁ、まぁ一応な」


苦笑いしながら答えるタダクニに、ヒデノリは固まったまま動かない。モトハルもいきなり出た知り合いの名前に呆然としていた。
ヒデノリとタダクニ、そしてモトハル以外のクラスメイトたちは顔を見合わせて首を傾げている。その様子を見て段々恥ずかしくなってきた俺は皆から目を背けた。


「で、そのみょうじさんという人とどうして一緒にいたんだ?」
「うっ…」


腕を組みながら唐沢が言う。こういうとき、唐沢みたいな奴がいると厄介だ。しかも唐沢たちにはまだみょうじさんとのことを話していない。これを機に聞いてくるに違いないだろう。
顔が引きつるのを感じながらちらりと視線を上げる。そこには、じとりとした目線を送ってくるクラスメイトたちが目に映って、俺は逃げるように視線を逸らした。しかし、逃げられるはずもなく…。


「言わねぇとみょうじさんとのこと言い触らすぞー?」
「はあ!?」
「なに!?ヒデノリ、詳しく!!」
「てめ、ずりぃぞヒデノリ!」
「なら勿体ぶらずに言いなさいよ」


眼鏡を上げてニヤリと笑みを浮かべるヒデノリが心底憎い。他のクラスメイトもヒデノリに「詳しく!」やら「はよ話せ!」やらと急かしているし、うざいことこの上ない。
試しにタダクニに助けの視線を向けるも目が合った瞬間逸らされてしまった。モトハルにも助けを求めてみたが敢えなく撃沈。ここで、自分の味方が一人もいないと悟った俺は項垂れるしかなかった。そしてやいのやいの騒ぐ野郎共に向かって、俺は羞恥心を振り払うように勢いよく立ち上がる。


「みょうじさんとは駅で会っただけだぁぁあ!」
「おぉ、ヨシタケが吠えた!?」
「たまたま駅で会って、たまたま同じ車両に乗って、たまたま同じ駅に降りただけだ!これで充分だろ!」


もちろん嘘は言っていない。たまたま会ってたまたま同じ車両でたまたま一緒に駅を降りただけ。ただ、満員電車で痴漢に遭わないように行動していたことは絶対ヒデノリたちには言わない。
そう心に誓ったのに、それは呆気なく崩れ落ちた。


「でもヨシタケさ、あんな距離でたまたまってなんかおかしいとおもっ…はっ」
「なにぃ!?詳しく!ミツオ君詳しく!!」


俺の殺気染みた視線に気付いたのは良かったけれど、結局全部言いきってしまっては意味がない。ミツオ君は両手を口に当てて首を横に振るけれど、皆からの好奇心の眼を向けられていて、あぁもう今日は本当に厄日だと項垂れた。


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