朝、目が覚めた私はいつものように時間を確認するため携帯に手を伸ばす。携帯の画面にある時計を見る前に新着メールの文字を見つけて、一気に頭が覚醒した。



「よ、ヨシタケくんからだ…!」



受信ボックスに未読状態のヨシタケくんの名前が出て、にやぁと笑ってしまう。メールが来ただけでこんなに目覚めがいいなんて、やっぱり私はヨシタケくんのことが好きらしい。改めて自覚しながら、受信メールを開く。



"いやいや、俺も変なこと口走って余計なことしちゃったし、みょうじさんに迷惑かけまくってすみません…。正直、みょうじさんともうちょっと話したかったっす。"



いやいや迷惑だなんてそんな、と思わず口に出してしまう。そのあとに続いた文に、私は布団の中で悶えた。ヨシタケくんにそんなことを言われて(メールでだけど)悶えないわけがない。
嬉しさで顔が気持ち悪くなっているだろうが、誰にも見られることはないのでそのままメールの続きを見ることにした。



"ヒデノリとタダクニだったら気にしないでください。手伝うなんて、大丈夫っすよ。本当気にしないでいいっすから。"



気にしないでと言われても気にするに決まってる。でもヨシタケくんにそう言われてしまっては私からは何もできない。そうか、気にするけど私には何もできないのか、と思いながら溜め息を吐いた。なんだかヨシタケくんのメールに一喜一憂しすぎだろう。
そんな自分にせせら笑いながら、メールの続きを見ていくと最後の一文に私は目を見張った。



"あの、いきなりですんませんけど、みょうじさんって気になる人はいるんすか?"



その一文にどんな意味が込められているのかわからないのに、私は踞り唸る。悶絶しそうだった。
ちらりと携帯のメール画面を見ては、はぁーと溜め息とは違う息が洩れてしまう。この返事に私はどう返せばいいのか、と思いながら画面を見たり見なかったりしていると、下からお母さんの声が聞こえた。



「なまえー!遅刻するわよー!」
「……え!?」



慌てて画面の端にある時計に目をやると、そこにはいつも私が家を出る時間の15分前の時刻を指していた。どんだけメールに夢中になってたんだと驚きながら、私は勢いよく布団から飛び出した。

あのあと田中と待ち合わせる時間に間に合わないと思った私は、ヨシタケくんの返信は後で考えるとして、遅れそうだから先に行っててと田中にメールをする。制服に着替えて歯磨きと顔を洗って、朝ご飯を食べずに家を飛び出した。
駅に向かう途中で田中から返信のメールが入る。



"あんたが遅刻なんて珍しいね。槍でも降るんじゃない?ま、急いで来てもいいけど気を付けて来なよー"



その返信に私は少し笑って、携帯を制服のポケットの中にしまう。駅に着き待ち合わせ場所を見たがそこに田中の姿はなかった。私のせいで田中が遅れたりしたら申し訳ないし、居なくてよかったと安堵の息を吐く。
改札口を通って電車を待っていると後ろから聞き慣れた声が耳に入った。その声に胸がどきっと大きくはねる。



「今電車待ってるとこ。いやマジでごめんって…つーかちゃんとメールしたし学校にも間に合っただろ?あぁもうわかった、わかったって。じゃあ電車乗るから。また学校でな」



その声は間違いなくヨシタケくんの声で、私はおそるおそる振り返った。少し離れたところにヨシタケくんが目に映り、私は慌てて元に戻る。まさか昨日の今日でいきなり駅のホームで会えるとは思わなかった。
どうしよう、と顔を俯かせているとポケットに入っていた携帯が震える。メールを受信したらしく、すぐに携帯の震えは止まった。田中かな、と携帯を取り出し確認する。



"すんません、いきなり。みょうじさん今どこにいるんすか?あ、学校だったら無視してください"
「………」



相手は田中の弟ヨシタケくんで、私は危うく携帯を落としそうになった。
もしかしてもしかするとヨシタケくんは私に気付いてる?そう思いながらまた後ろを振り返ると、今度はバッチリと目が合った。



「………」
「………」



目が合ったままの状態で数秒経つと、いきなりヨシタケくんがぎこちなく笑う。その笑い方がおかしくて私はぷっと吹き出してしまった。小さく笑いながらヨシタケくんに近付いていく。



「よ、ヨシタケくん…ふふ、お、おはよう」
「…なんで笑うんすか」
「ヨシタケくんが変な笑い方するからだよ」



ヨシタケくんは笑われたのが恥ずかしいのか、少しだけ頬が赤くなっていた。なんとか落ち着きを取り戻した私はヨシタケくんに声をかける。



「ヨシタケくんはこの時間にいつも乗るの?」
「いや、俺がたまたま寝坊しただけで…。みょうじさんこそ、いつもこの時間なんですか?」
「ううん、今日は私もたまたま寝坊したんだ」



まさかお互い寝坊してこの電車で鉢合わせるとは思わなかった。それはヨシタケくんも感じたようで、目が合うとふっと笑みを浮かべた。その表情にまた胸がどきっとはね上がる。何話せばいいかテンパっていると、ヨシタケくんの声が耳に入った。



「寝坊して得したの初めてっす」
「えっ?」
「だって寝坊した日は大抵その日は損なことばっかりなんすよ。さっきもヒデノリに遅刻した罰としてクレーンゲームに付き合うことって命令されたし」
「ヒデノリくんクレーンゲーム好きなんだ」
「まぁクレーンゲームに付き合うのは別にいいんですけどねー…」
「まだ何かあるの?」
「たまーに自作漫画書いて俺に見せてくるんすよ。で、感想くれって言われたから素直に思ったこと言ったら殴られました」
「あはは、素直に思ったことでヒデノリくんがキレちゃったんだ。私もよくあるよー」
「え、よくあるんすか?」
「うん。私もたまに素直に思ったことを田中に言ったら殴られたときあったし」
「……なんかすんません」
「えっ、あ、いやいや、私が正直に言い過ぎたってのもあるし!ヨシタケくんが謝ることないから!」



謝るヨシタケくんに、私は手を横に振る。ヨシタケくんは眉根を八の字にさせて申し訳なさそうにしていて、どうフォローしようかと思ったその時、ちょうど私たちが乗る電車がやってきてホッと安堵の息を吐いたのだった。


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