ご飯を食べ終わるとすぐお風呂に向かう。携帯を見ないのは返信がなかったら凹むからだ。しばらく置いたとして、返信がなかったらもっと凹むだろうけど。
湯船に浸かりながら今日のことを思い返す。今まで生きてきた中で一番濃い1日だった。そして一番恥ずかしい思いをした日でもあった。何かの発表会よりも恥ずかしかった。
私はボーッとする頭の中に、ヨシタケくんの顔が浮かび上がる。もっと話したかったなぁ、と我ながら乙女チックなことを思う自分がおかしくて、顔が自然とにやけてしまった。

お風呂から出て自分の部屋に向かう。返事来てるかな、とそわそわしながら部屋に入り携帯を手に取ると、そこには新着メールの文字が目に入った。一気に脈が速くなり、ニヤニヤが止まらない。
おそるおそる新着メールを選択すると、"田中ヨシタケ"の文字に私は枕に顔を埋めた。



(うわー、もう嬉しすぎるー…!)



端から見たら気持ち悪いだろう。多分、田中に見られたら引かれるレベルだ。それくらい私はニヤニヤしていた。ふと受信時間を見れば、30分前に受信されていたことに気付き、慌ててメール画面を開く。



"どういたしまして。今日は色々話せて楽しかったです。あと、今日は色々とすみませんでした…。"



ヨシタケくんのメールを何度も読み返す。話せて楽しかった、とお世辞でもそう言ってくれて嬉しくないわけがなかった。ニヤニヤしてしまう自分が気持ち悪い。
ヨシタケくんのメールには絵文字はなく、もともと絵文字を使わない人なのかな、と思いつつも私はメールをくれただけでも舞い上がっていた。
単純だと我ながら思った。

さて、私はなんて送ろうかと入力画面を開く。とりあえず、30分遅れたことを詫びることにした。



"遅れてごめんね…。ヨシタケくんが謝ることないよ!謝るのは私のほうだし(>_<)本当にありがとう!
私もヨシタケくんと話せて楽しかったよー!"



そこまで打って、ふとヨシタケくんの友達が思い浮かんだ。そういえば、あの二人は私とヨシタケくんが付き合っているって勘違いしてたような気がする。大丈夫なのかなとヨシタケくんに聞いてみることにした。それと、私にできることがあったらなんでも言ってね、を付け加える。
文面が完成して、どこかおかしくないか何度も読み返し、そして送信ボタンを押した。一息つくと、どっと疲れが襲ってきて、脱力感に支配される。
もう一度、受信ボックスにあるヨシタケくんのメールを見たあと、眠気に負け、そのまま眠ってしまった。



*     *     *



タダクニの家を出て、ヒデノリと歩く。メールを送ったからか、俺は少しそわそわしていた。そんな俺に気付いたのか、ヒデノリは俺の肩を叩く。



「んな焦らなくても返ってくるって」
「は、はぁ?そんなんわかんねぇだろ…」
「俺が言うんだから間違いねぇよ。自信持てよヨシタケー」
「なんでそんな自信満々なんだよ」



ジト目でヒデノリを見る。するとヒデノリは親指を立ててウィンクしてきた。どうしてヒデノリがそう言いきれるのか不思議でたまらなかった。

ヒデノリと別れて、一人暗い夜道を歩く。歩きながら何度も携帯を見るが、着信音は鳴るはずもなく、自分の家へと着いてしまった。俺らしくねぇ、と思いながら玄関を開ける。親がすぐに飯だと言うので、鞄を置きに部屋に戻ったあと食卓についた。隣に座る姉さんをちらりと見る。



「………」
「な、何よ?」
「…別に」



姉さんを見て溜め息をつくと、失礼な奴だな!と頭を叩かれた。みょうじさんと姉さんが同じ人間とは思えなかった。

夕飯も終わって風呂に入り部屋に戻る。ふと携帯の存在に気が付き、見てみると新着メールが二件入っていた。少しドキッとしてしまう。



「…うお」



受信ボックスを見ると、ヒデノリの名前と、みょうじさんの名前が未読で表示されていた。吃驚して変な声が出てしまう自分が情けない。
先にヒデノリのほうを見てみた。



"どうだ?返信来ただろ?"



そのメールに顔が引きつる。確かに来たには来たが、タイミング良すぎだろ。そう突っ込むも、返信はしないでおく。
次に、みょうじさんからのメールを開いた。緊張してしまうのは、女の子からのメールだからだろう。



"遅れてごめんね…。ヨシタケくんが謝ることないよ!謝るのは私のほうだし(>_<)本当にありがとう!
私もヨシタケくんと話せて楽しかったよー!そういえば、ヒデノリくんとタダクニくんに付き合ってるって誤解されたままだよね…?ごめんね、私に何かできることがあったらなんでも言ってね。"



それを見て、かわいいと思った俺はどうかしてるかもしれない。顔が自然とにやけてしまう。手で口元を覆い何度も読み返したあと、溜め息をついた。



(やべー…)



メールの返信が来るだけで、こんなにも嬉しいものだとは思わず、深呼吸を繰り返す。そして枕元に携帯を置き、胡座をかいて腕を組んだ。さて、どう返せばいいのだろうか。



「…わっかんねー」



中学の頃から女の子とろくに連絡を交換したこともない俺には、どう返事をすればいいのかわかるはずもなかった。そりゃ女の子と連絡とったりしてみたかったけど、中学の頃は友達と遊んだほうが楽しかったからな。友達は大事だ。
一人頷く俺は、我に返り頭を抱える。今は思い出に浸ってる場合じゃねぇ。
みょうじさんの文を見ながら、今日の出来事を思い返す。



"いやいや、俺も変なこと口走って余計なことしちゃったし、みょうじさんに迷惑かけまくってすみません…。正直、みょうじさんともうちょっと話したかったっす。
ヒデノリとタダクニだったら気にしないでください。手伝うなんて、大丈夫っすよ。本当気にしないでいいっすから。"



俺の気持ちを素直に取り入れてみたが、こんな感じでいいのだろうか。一人悶々と考え込む。そういえばクエスチョンマークで返せば返ってくるってヒデノリが言ってたな…。みょうじさんに聞きたいこと…聞きたいこと…。あ、なんだ、聞きたいことあったじゃん。
俺はみょうじさんに聞きたいことを最後の文に付け加える。そして何回も読み直したあと、送信ボタンを押した。
送信完了の画面が映ると一息つく。何故か達成感に満ち溢れたような気分だった。そのまま布団の中に入ると、すぐに眠気は襲ってきた。
ヒデノリには明日でもいいか。そう思いながら俺は携帯を手に持ったまま目を閉じた。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -