落ち着け、落ち着くんだ俺…!


ヨシタケはむせながらバイブで震える携帯を力強く握る。
ヒデノリが変なことを言い出したせいだ、と涙目になりながらヒデノリを睨み付けた。当の本人は何食わぬ顔でヨシタケを見ていた。



「おーい、大丈夫かー?」
「だ、だいじょ、ぶなわ、けねー、だろ…」
「いきなりどうしたんだ?」
「べっ、別に…」



タダクニの問いに、ヨシタケは明後日の方向を見て誤魔化そうとする。しかし、ヨシタケの様子がおかしいことにいち早く気付いたヒデノリはニタァと笑った。



「ははーん」
「…なんだよ」
「なぁ、タダクニ。何もないのにいきなりむせるって怪しいと思わねぇ?」
「え?ま、まぁ確かに…」
「だよねー、何もないのにむせることって滅多にないよねー」
「なに?ヒデノリどしたの?」



ニヤニヤ笑いながらヨシタケを見るヒデノリに、ヨシタケは顔を引きつらせた。タダクニは怪訝な顔つきでヒデノリを見る。

こいつはなんで人のことに関してはこうも鋭いんだ。

そう思いながら、震えていた携帯が止まるとヨシタケは一息ついた。

さて、どうしたものか。
ここで携帯を開くという行為は危険だ。特にヒデノリ。こいつは間違いなく茶化してくる。まぁ、タダクニは問題ないだろう。
かといってみょうじさんからのメールを見ないわけにはいかない。だけど携帯は開けない。ヒデノリたちの前では……あ、それならトイレに行けばいいんじゃね?

その答えに辿り着いたヨシタケは、おもむろに立ち上がった。



「ヨシタケ?」
「…わり、俺トイレ…」
「あ、俺も行こうと思ってた」
「なっ」



タダクニならよかったものの、腰をあげたのはヒデノリのほうだった。ヨシタケはヒデノリを見ると、ヒデノリは逃がすまいと言いたげにニヤリと笑う。それを見たヨシタケは頭を抱えたくなった。



「タダクニは待っててくんねー?」
「いいけど」
「サンキュ。そんじゃ、ヨシタケくん。元気よく行こうぜー」



ヒデノリは無理矢理ヨシタケの腕を引っ張り、トイレへと向かう。ヨシタケはタダクニに助けを求めようと目で訴えてみるが、タダクニは呆れた顔をしていて、瞬時に「あ、これ無理だ」と察したのだった。

トイレに入るとヒデノリは「で?」と腰に手をあててヨシタケの前に仁王立ちする。



「…何がだよ」
「なーんで隠そうとするんだよ。俺ら友達だろ?」
「……こういうの、恥ずいし」
「別に邪魔しようとか思ってねぇよ。確かに首を突っ込みすぎんのもアレだけどさ…みょうじさん、いいと思うぜ、俺は」
「だから、まだ好きとかわかんねーし」
「お前は小学生か!」



「これだから童貞は…」と額に手を当てるヒデノリに「お前も童貞だろ!」と突っ込む。ヒデノリはそれに怯むことなく続けた。



「この際、好きとか好きじゃないとかどうでもいい」
「どうでもいいのかよ!」
「いや良くないが、まぁそれは置いといて。俺らとしてはヨシタケたちを応援したいと思ってるんだ」
「……(本当かよ)」
「そんな疑いの眼差しで見るなよ。一人で悩むよりは楽だろ?」



「な?」とまるで諭すように言うヒデノリに、ヨシタケは少し考えて、そして「…そうだな」と呟いた。それを見逃さなかったヒデノリは早速本題へと入る。



「で、思いっきりむせた後、いきなりトイレって何があったんだ?」
「あぁ…あーっと、みょうじさんから、メール来てさ」
「……ぬわぁにぃ?!おま、いつメアド交換したよ!?」
「ついさっきだけど」



驚き慌てふためくヒデノリに、ヨシタケはそんな驚くことなのか、と苦笑する。ヒデノリは何を思ったのか眼鏡を外すと、いきなり流しで眼鏡を洗い始めた。それをヨシタケは呆然と見つめる。濡れた眼鏡をトイレットペーパーで拭きかけ直すと、キリッとした顔つきで口を開いた。



「議論を始める」
「は?」



目を点にさせるヨシタケを他所に、ヒデノリはヨシタケの腕を引っ張りトイレを後にするのだった。


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