さっきまでの雨雲はどこへやら。ヨシタケくんの後ろを歩きながら、すっかり晴れ渡った空を見上げ、溜め息をつく。隣を歩いたほうがいいのか迷った挙げ句私がとった行動は、ヨシタケくんの後ろを歩くことにした。いやだって隣に行くの恥ずかしいし、もしかしたら嫌がられるかもしれないし。

…自分、臆病者すぎやしないか。



「………」
「………」



気まずい、とても気まずい。ヨシタケくんは何を思っているのだろう。話し掛けようにも、あんなことがあったからか話し掛けるだけでもすごい勇気がいる。はぁ、私はなんてことをしてしまったのだろう。
ふとヨシタケくんの背中に視線を移す。さすが男の子だけあって背中が広い。その背中を見て、なんだか頼もしく見えた。



(…変態か)



自分で自分に突っ込みをいれる。本当、考え方が変態ちっくだ。ひとつ年下の、しかも友達の弟だというのに何を考えているんだろう。



「…あの」
「!は、はいぃ?!」



いきなり話し掛けられたから声が裏返ってしまった。めちゃくちゃ恥ずかしい。羞恥心で目線を俯かせる。
ヨシタケくんの表情をちらりと盗み見ると苦笑を浮かべているのがわかった。声が裏返ったのを聞かれたとわかり、もっと恥ずかしくなる。



「なな、なんで、しょう…」
「てかなんで敬語なんすか」
「なんとなく、です」



ヨシタケくんを直視することができず、目線を泳がせる。絶対変な人だと思われてるに違いない。なんでこないだみたいに話せることができなくなったのだろうか…。まぁ、答えはなんとなくわかるけど。
目線は相変わらずヨシタケくんを捕らえられないまま私は、それよりも何かな、ヨシタケくん、と声をかけた。



「あー…その、ですね…」
「うん?」
「その、後ろを歩かれるとなんか気まずいっつーか…」
「えっ」



その言葉に私はハッとする。後ろを歩いちゃまずかったか。でもそうだよね、ヨシタケくんからしたらストーカーされてるようで気持ち悪いよね。
私は慌てて頭を下げてごめんなさい、と謝った。ヨシタケくんは両手をブンブン横に振り、いや全然謝ることないっす、とフォローしてくれて、優しいなぁと思いつつ、じゃあどこを歩いたらいいかな、と問い掛ける。私の問いにヨシタケくんはピシッと固まり、そして手を顎に当てた。



(この場合どう言えばいいんだ?前を歩かせるわけにはいかないし、ていうかなんでこの人は自分の隣を歩くという選択肢を出さないんだろう。まさか、俺の隣を歩きたくないとか…?それだったらかなり凹む…いやでもこの間は一本の傘の中に入ってたし…みょうじさん、俺に気使ってくれてんのかな…はぁ、女ってわかんねぇ)
「…あの?」



ぶつぶつ言うヨシタケくんに私は首を傾げる。私が話し掛けるとヨシタケくんは慌てて顔をあげて口を開くが、そこから声を発することなくすぐに口を閉じ今度は唸り始めた。もしかしてどこか怪我でもしたんだろうか。



「うーん…」
「だ、大丈夫?」
「え?」
「どこか痛い、とか」
「いや全然どこも痛くない、ですけど」



どうやらどこか怪我をしたわけでもないらしい。ならなんで唸っているのか。しばらく唸るヨシタケくんを静観してみた。本当男の子ってわからない。



「みょうじさん」
「あ、はい」
「みょうじさんが嫌じゃなかったら、なんですけど」
「はい」
「………」
「……?」
「…い、一緒に歩きませんか」
「…え」



一緒に歩きませんかってことは、ヨシタケくんの隣を歩くということだろうか。それにしても回りくどい言い方である。いや、そう言ってもらえて嬉しいとか思ってますけども。
ヨシタケくんは自分で言って気恥ずかしいのか、頬をかきながら目線を泳がせている。その姿を見て、胸がキュンと鳴ってしまった私はもう駄目かもしれない。ヨシタケくんの思いがけない言葉に、嬉しい気持ちが込み上げてくる。その気持ちの表れなのか、自然と口元が上がるのを感じた。
私はそれを隠すようにヨシタケくんの隣に並び、こちらこそ、一緒に歩かせてください、と言うとヨシタケくんは一瞬驚いたように目を見開かせたがすぐに顔を綻ばせ、じゃ、行きましょっかと呟いた。

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