会長とモトハルが去っていった後、二人の間は沈黙が流れていた。そんな沈黙を破ったのは、一部始終を見ていたタダクニだった。



「おい!ヨシタケ!大丈夫だったか?」



タダクニの声で二人はハッと我に返り、タダクニを凝視する。タダクニの髪や服が濡れているのに気付いたなまえは慌てて二人を傘で雨を防ごうとする。しかし、いつの間にか雨は止んでいて周りが傘をさしていないことに気付いた。
いつ止んだんだろう、と呆然と空を見上げるとさっきまで灰色一色だったのに、灰色の雲から見え隠れしている太陽が見えた。空を見つめるなまえを余所にヨシタケはハァ、と盛大に溜め息をついた。



「タダクニ、サンキューな」
「おう、あ、みょうじさんも大丈夫でした?」
「えっ、は、はい、大丈夫、です」



まさか自分に話し掛けてくれるなんて思わなかったので、思わず敬語で返してしまう。なまえは傘を畳みながらヨシタケを盗み見ると、ヨシタケもなまえを見ていたのかカチッと目が合い、どちらからともなく目をそらした。そんな二人を見てタダクニは首を傾げる。



「おーい!大丈夫かー!」
「!ヒデノリ!」



タダクニの次にヒデノリが手を振りながら駆け寄ってきた。ヨシタケはヒデノリにもお礼を言うとヒデノリは少し照れながらも、ハッと我に返り突然ヨシタケに詰め寄った。



「ヨシタケ!てめぇ!」
「ちょ?!いきなりなんだよヒデノリ!」
「お前…!いつの間にみょうじさんと付き合ってたんだ!」
「「は?」」



目を丸くさせるなまえとヨシタケに、何故か必死そうなヒデノリといつもならツッコミを入れるはずのタダクニは黙ったまま二人を見つめる。そんな二人にヨシタケは誤解を解こうと慌てて口を開いた。



「誤解なんだって!あれはな、ああでもしなきゃ」
「俺たちは!俺たちは友達じゃなかったのか!」
「はぁ!?友達に決まってんだろ!」
「じゃあなんで教えてくれなかったんだぁぁあ!!」



ヨシタケの肩を激しく揺さぶるヒデノリに、ヨシタケはされるがままにガクンガクンと頭を前後揺さぶられる。それをタダクニは慌てて止めに入り、なまえもヒデノリに違うんです、と誤解を解こうとした。



「ひ、ヒデノリくん!これ本当に誤解だから!」
「ほ、ほら…みょうじさんもこう言ってるだろ…」
「だが俺は聞いていたぞ…!お前がみょうじさんの彼氏発言したのを!タダクニも聞いただろ?!」
「あ、あぁ、まぁな」



興奮し出したヒデノリを止めることは難しい。ヒデノリに頭を激しく揺さぶられフラフラになったヨシタケは思わず、近くにいたなまえの肩に腕を回してバランスを取る。その行動になまえ含めヒデノリたちも目を見開いてヨシタケを凝視した。



「あああの、ヨシタケくん…」
「え?あ!すんません!た、タダクニかと…!」
「…ヨシタケ、嘘は良くないと思うぞマジで」
「そうだよヨシタケ、素直になれよ」
「え、え?な、なんだよ、その目!」



ヨシタケのその行動にヒデノリとタダクニはじとっとした目で見つめる。そしてヒデノリがヨシタケを手招きして自分達のほうへ引き寄せると、ヒデノリはなまえに聞こえないようにコソッと喋りだした。



「お前な、恥ずかしいのはわかるがみょうじさんの前で彼氏じゃねぇなんて言ってやるなよ」
「…え?」
「みょうじさん傷付いちゃうだろ、なぁタダクニ」
「あぁ…俺らに言ってくれなかったのはショックだったけどさ」
「…は?」



何言ってるんだこいつら。
勝手に話を進める二人に、ヨシタケは呆然とするしかなかった。ヨシタケはない頭を必死に働かせ二人の言い分を解析する。

つまりはこうだ。
二人の中で俺とみょうじさんは彼氏彼女となっていて、だけど俺が彼氏じゃねぇと反論するが二人は聞く耳を持たない。じゃあ何故こいつらはみょうじさん傷付けんなみたいな話をしているんだ。
そしてヨシタケはさっきの自分の行動を思い返してみた。ヒデノリに揺さぶられ近くにいたみょうじさんの肩に腕を回してしまったことを思い出す。あれはタダクニかと思って腕を回したのに、何故かみょうじさんの肩に腕を回していた。ほとんど無意識だった。
それを見てヒデノリやタダクニは確信したのだろう。ヨシタケとなまえが紛れもない恋人同士だということを。



「だから違うんだって!」
「何が違うんだよ、今だって肩に腕回してただろ」
「いやあれはタダクニかと思ったんだよ!人違い!ほら、よくある話だろ?!」
「なぁ、ヨシタケ…公衆の面前であんなことするのはどうかと思うんだけど」
「だーかーらーあれはお前だと思って…ってかなんで顔赤くなってんだよ!」



ヨシタケは必死に弁解するが、二人はヨシタケがただ恥ずかしがっているだけで、恋人同士というのにはかわりない、という結論になっていた。
自分の話を聞こうとしない二人にヨシタケは盛大に溜め息をつき頭を抱える。もうどうしたらいいかわからなかった。
そんなヨシタケに追い討ちをかけるようにヒデノリが口を開く。



「あ、ヨシタケはみょうじさんと帰るよな?」
「…え」
「俺はタダクニと帰るかー。嫌だけど」
「何だよそれ俺と帰るの嫌なのか!?」
「冗談だよ冗談、タダクニったら何本気になってんの」



けらけら笑いタダクニをからかうヒデノリにヨシタケは顔を引きつらせる。



「ちょ、俺も一緒に帰るし」
「みょうじさんの彼氏なんだから送ってけって。さっきみたいに絡まれたら大変だし。なぁ、タダクニ」
「あぁ」
「え、は、えぇ…」



ヒデノリの言葉にヨシタケは何故か納得してしまった。確かに今一人で帰らせるのは心配だ、とそう思ったからだ。
固まるヨシタケを他所に、ヒデノリとタダクニは呆然とこちらを見つめるなまえに向かって、じゃあ俺ら帰りますんでヨシタケをよろしくお願いします、と言って帰路を歩き出した。
なまえもヨシタケも、デジャヴを感じながらも二人の背中を見つめるしかなかった。



「……ちょっとわざとらしくね?」
「あれくらいがちょうど良いくらいだろー。あーなんか楽しくなってきた」
「………(ヒデノリってこんな奴だったっけ)」



そんな会話がされていたなんて、ヨシタケやなまえは知るよしもない。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -